高卒就職活動を制限する時代遅れの「1人1社制」

2023年7月8日

 こんにちは、社長の藤田です。

 学歴も会社も頼れない時代、大学や短大に進学せず高校卒業後に就職することは、人生における有力な選択肢の一つと言えます。

 しかも高卒生の就職は空前の売り手市場です。厚生労働省によると、2023年末時点の全国の高卒生の求人倍率は3.49倍と過去最高を記録。人手不足と少子化を背景に、各企業も高卒人材の獲得に積極的に乗り出しています。

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/jakunen/2023CK_job_opening_to_applicants_ratio_202303.html

 しかし長年の慣行により、一人の高校生が学校の斡旋で応募できる企業は原則1社に制限されており、自由な就職活動を事実上妨げられています。

 今回は、取材などを通じて聞いた高卒就職に対する「生の声」を交えながら、高卒採用で長年採用されている「1人1社制」のルールについて考えます。

旺盛な高卒の採用・就職

 地方新聞社に勤めていた時代からフリーライターである今に至るまで、高卒の採用や就職に前向きな場面を目の当たりにしてきました。本題に入る前に、それらの声の一端を紹介したいと思います。

「就職の滑り止めで高校へ行く」

 私が新聞記者として働いていた頃、造船業を基幹産業とする都市に2年半ほど赴任していました。全国に名の知られた大手造船会社があり、その周りに仕事を請け負う地場の協力企業が多数ある「ものづくりのまち」でした。

 この都市での高度経済成長期の就職・進学事情について、ある年配の方から以下のような話を聞いたことがあります。

 「昔は中学卒業後、造船に就職できなかった子が高校に進学していたんですよ」

 その都市では、造船会社に直接雇われる「本工」として就職することが当時の花形。高給と安定雇用が約束されていたそうです。

 そのため、中学生たちはまず造船会社の本工採用を目指し、そこで就職できなければ「すべり止め」として高校を受験していたというのです。

 現在はさすがにそのようなことはありませんが、それでも地元の商業高校・工業高校で優秀な成績を収めている生徒は、造船、自動車、石油化学などの大手企業に採用されています。

「ヘタな大学へ行くより就職が良い」

 これは造船の都市とは別のまちで、お世話になった方から聞いた話です。当時、子どもがある工業高校の3年生で、成績もクラスで上位とのこと。来年は大学進学ですか、と尋ねたところ、次のような答えが返って来ました。

 「いや、大学に行かせず、就職させようと思うんですよ。おかげさまで高校の成績は良いみたいなので、ヘタな大学に4年間通って就職するより、いい会社に就職できるんです。本人も就職を希望していますしね」

 大学の4年間を回り道とするか、将来の進路の糧とするかはあくまで本人次第ですが、大卒生より手に職を付けた高卒生のほうがもてはやされるという“逆転現象”に驚いた覚えがあります。

「何色にも染まっていない人材が欲しい」

 次の話は、フリーライターになってから聞いた話です。高卒生の採用について検討している企業経営者の方で、理由について次のように述べていました。

 「高校生ってね、何色にも染まってないんですよ。中途半端に知恵を付けている大学生よりも、真っ白な状態の若者を採用して、会社の将来を背負う人材として一から育てていきたいと思っています」

 これも大卒生より高卒生を重宝するケースです。高卒生に対し旺盛な採用意欲を象徴した発言だと言えます。

現実は自由な就職活動が制限されている

 このように高卒の就職市場が活況を見せているにもかかわらず、1人1社制によって高校生の自由な就職活動は事実上制限されています。

 高校生の就職活動は都道府県により微妙にシステムが異なりますが、ほとんどの場合「学校斡旋」という形で行われます。大学入試で言う指定校推薦のようなシステムで、校内選抜を経て成績優秀な生徒を学校が企業に推薦するという制度です。

 この学校斡旋では、1人当たり1社しか応募することができません。大卒の就職活動では複数社応募するのが普通ですが、高卒の場合は興味のある企業が複数あったとしても、応募できるのは1社のみです。

 この1人1社制のもとで就職できなかった生徒に限り、複数社の応募が可能となりますが、その際も1人2社以内、3社以内ないなどの制限をかけている都道府県がほとんどです。

1人1社制の「理由」と弊害

 1人1社制の「理由」として、次のようなことが挙げられています。

①高校生は企業や職業に対する理解が乏しいので、先生が就職活動を導く必要がある

②生徒1人1人に対し平等な就職機会を与えなければならない

 とはいえ、1人1社制は高度経済成長期につくられた慣例であり、インターネットで簡単に情報を入手できる現代に必ずしも通用するとは限りません。スマートフォンでさまざまな情報を入手する高校生を「企業や職業に対する理解が乏しい」と決めつけるのは甚だ疑問です。

 高卒者の離職率が高い水準で推移しているのも問題です。厚生労働省によると、2019年の新規高卒者の3年以内の離職率は35.9%。先生方の就職指導や、平等な就職機会の提供という1人1社制のメリットが機能していないどころか、むしろミスマッチという新たな弊害を生み出しています。

1人1社制の恩恵を受ける高校と大手企業

 行政も何もしていないわけではありません。国の有識者会議は、2020年に複数社への応募を可能にすることを検討するよう各都道府県に呼び掛けています。

 しかし笛吹けど踊らず。見直しに取り組んでいる地域はごくわずかです。

 ところで、1人1社制によって恩恵を受けている組織というのは一体どこでしょうか。

 まずもって一番メリットがあるのは高校です。生徒にひとしく就職の機会を与えるこの制度により、労せずして多くの生徒を就職させる“”実績“を残すことができるからです。

 もう一つは、大手企業だと考えます。ネームバリューさえ保っておけば、地元の高校から安定的、自動的に人材を採用できるからです。

 1人1社制の見直しに向けては、この制度によって恩恵を受けている2者の意識を変えていく必要があると考えます。

まとめ

 今回は、高卒就職活動における「1人1社制」について考えました。要点をまとめておきます。

・高校生の就職活動では、学校の斡旋で応募できる会社は原則1社に制限されている
・高卒の就職市場が活況をみせているのに、自由な就職活動ができないでいる
・ネットで簡単に情報入手できる現代に合わない制度で、企業のミスマッチという弊害を生んでいる

働き方

Posted by かく企画