おそまつな台風取材

 今年の台風シーズン、みなさんが住んでいる地域の被害はどうでしたか? 新聞記者時代、夏の終わりから秋の初めは、よく台風が来て、取材をしていました。

 今回は、台風という災害取材について、社員の仮面ライターが、現場取材する人に向けて書きます。

災害取材の実情

 記者の新人だった20年くらい前のことです。台風取材は、職場としてはとても熱が入るものでした。

 台風が近づくと担当している地域から出ることを禁じられます。休みは関係ありません。

 デスクと2、3人の記者は新聞社の建物に残ります。警察担当は警察本部の記者室に詰めます。県庁担当も同様です。それ以外の記者は、決められた地域に出されます。

 私がよく配置されたのは、山奥や島でした。島の場合は、台風の上陸時間によっては前の日から渡り、民宿のような所に泊まりました。

 観光シーズンも終わり、ひっそりとした民宿。なんとなく湿っていて冷たかった布団が思い出されます。

 台風が直撃して、空も陸も荒れ狂う中、コンパクトカーを運転して、災害が起きていそうな所をうろうろします。土砂崩れや浸水が起きそうな場所を、役所の担当者に事前に聞いておき、いくつかのポイントに向かいました。

 台風上陸前。台風が近づいてくると、担当者は忙殺されていました。電話をかけても離席が多く、話が聞けたとしても、とても迷惑そうでした。実際に、自分がしていることは迷惑だという自覚はありました。

 台風の中うろうろしているというのは、現実的に意味がある行動ではありません。しかし、デスクから電話がかかってきます。

 デスクは早い時間帯に地域ニュースのページの写真を決めたいのです。それは、私が「本社」と呼ばれる内勤部署に異動し、整理部員になって知りました。また、社会面での写真掲載も狙っていました。

 当時のデスクは、完成されたパワハラ人間だったので、電話の第一声は怒声です。そして、罵詈雑言が続きます。

 今では考えられないことですが、夕方前からデスクは酒をすすり、酔った状態で電話をしていました。外にいる私はそうした状況がわからないので、電話をしたばかりの市役所に再度、被害について聞きました。

人が違えば取材も変わる

 ちなみに、異動して次の赴任地では状況が違いました。台風取材に出る時、支局長が私に言ったことが忘れられません。

「命が最優先や。自分が危ないと思ったら進まんでええから、帰ってきて待機してや」

 この支局長は、前年、全国ニュースにもなった台風被害地域で、一歩間違えれば、という取材を経験した人でした。

危険を回避し取材するためには

 マスコミは非常に強固な上下組織です。デスクやキャップの指示がおかしいと、大変なことになります。

 そもそも記者の車は、普通の小型乗用車です。台風直下の山間部や離島でうろついて被害を見つけるというのは精神論です。

 現在は、少しでもまともな取材環境になっていることを願うばかりです。人命を守りながら取材することは当然ですが、私が記者をしていた時は相当軽視されていました。

災害発生箇所の確認は内勤記者が優先してする

意味もなく危険なところに小型車で行かない

 上記の2点は当たり前だと思います。もし、私が経験したようなデスクと一緒に働くことになった場合、上司の判断がおかしいと思ったら勇気を持って自分の意見を言わなければなりません。

 出来れば、内勤をしている同僚、特に先輩記者に意見を言ってほしいものですが、まず言いません。期待しない方がいいでしょう。

 理由は、自分もそういう取材をしてきた、と思っているからです。記者たちは災害で亡くなった遺族に話を聞いてきたのに、災害の危険がわかっていません。想像力が足りていないのかもしれません。

 最近はゲリラ豪雨が多発するなど、少し前の気象状況と違ってきています。突然、記者がいる場所がとんでもない被害に遭う可能性があります。

 デスクに意見を言ったがために、評価や人事異動で割りを食うのが心配かもしれません。でも、死んだら終わりです。そういうことでマイナス評価をつけられても、後でいくらでも取り返すことは出来ます。

 上意下達の組織で不祥事が起きたり、人命が失われたりした時に、マスコミはかなり厳しく報道します。しかし、マスコミは人様の組織には厳しく、自分たちにはとても甘い組織です。

 若い記者には酷なことを言いますが、自分の命のことなのですから、勇気を持って意見を言って欲しいです。記者にも大切な家族や恋人、友人がいます。それを忘れないでください。

 私がこの点にこだわるのは、自分も現場記者をしていた時に、他社の新聞記者が災害に巻き込まれて行方不明になったからです。そのことは以下の回で書いています。

 また、ひどい被害が出た被災地に足を運んだ経験も私にそう言わせます。「まさか」というところで地滑りが起きたり、水に人がさらわれたりします。

 台風が去った翌日、日照りの被災地を歩きながら、自然の怖さを身をもって感じました。

最近の取材方法

 最近の取材方法は、ツールの点では進化しています。

 気象台のホームページは、昔に比べると充実しています。雨雲の状況もかなり詳細にわかります。また、停電の状況がリアルタイムで確認できるサイトもマスコミは使っています。

 SNSのつぶやきを感知できるサイトはとても便利です。ある地域で、同じようなつぶやきをしている人がたくさんいることがわかれば、消防が覚知する前に災害発生を把握できます。

 最終的には、警察や消防、都道府県庁や市町村役場などに電話で確認をします。

 でも、多様なツールを使えば、その分、内勤記者の手が空き、結果として、外に配置された記者が無駄なことをする必要性が減ります。

まとめ

 報道の受け手に安全確保を呼びかけながら取材しなければいけないのはマスコミ。だけど、取材者の安全を優先するのは当たり前です。

 新聞社は経営が厳しく、記者の人数は減りました。潤沢な資金がある報道機関と取材力で差をつけられている悔しさはあるかも知れませんが、限られた人員でやれることをするしかないのが実情です。記者職を去った今、現場で取材をしている人に感謝しています。

新聞記者

Posted by kamenw