「怒ったかな?」と思ったら(前編) ー不機嫌な取材相手への処方箋ー

2023年7月1日

ライター
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取材相手が不機嫌で、思うようにインタビューができない

ドクター
ドクター

病気と同じで、原因と症状に応じた処置が不可欠。相手が怒った理由や、怒り具合によって、対応策を取りましょう

 こんにちは、社長の藤田です。2002年から14年間、地方新聞社で記者職に従事。2021年からフリーライターとして活動しており、通算16年、取材で生計を立てています。

 インタビューの最中、取材対象者が何だか不機嫌――。ライターの皆さんは、このような事態に遭遇したことはないでしょうか。相手の気持ちに寄り添うことも大切ですが、それ以上に取材をして原稿を書き、納品するというミッションを果たさなくてはなりません。

 今回は、取材中に不機嫌になった、あるいは怒ってしまった場合の対応策について、原因、症状別に紹介したいと思います。私が体験した事例も随時盛り込んでいきます。

 また、警察取材での夜討ち・朝駆け、不祥事を起こした公人や企業への取材、犯罪被害者へのメディアスクラム、暴走族や反社会的勢力への突撃など、相手が怒ることが前提のインタビューは今回の“処方箋”の対象外です。

 取材のアポ入れで失礼な態度を取った、取材時間に遅れたなど、インタビュー前に非礼があった場合も対象外。ひたすら謝りましょう。

 夜討ち・朝駆けの方法については、以下の記事をご参照下さい。

取材相手が不機嫌になる原因

 取材相手が不機嫌になる原因と症状について列挙します。

原因

取材先が不機嫌になる原因
①取材が苦手
②取材前に嫌なことがあった
③取材中失礼なことを言った
④聞いちゃいけない部分に触れた
⑤難しい質問をした
⑥同じ質問をした
⑦取材が長引いている
⑧フィーリングが合わない
⑨見下されている
⑩原因不明

 他にもあるかもしれませんが、大まかにこのような感じではないでしょうか。⑤⑥⑦など、取材側に怒りの原因がある場合は、未然の防止策を取ることも大切です。

 困るのは、怒りの原因が自分以外にある場合。①②なんかは典型例です。相手に寄り添うことも重要ですが、まずは取材を完遂することを第一に考えなくてはなりません。相手が攻撃的な態度を取っても冷静を保ち、ライターとしてのプロフェッショナリズムを忘れずに取材に集中しましょう。

症状

不機嫌な取材先に見られる主な症状
①顔色が変わる
②言葉がつっけんどんになる
③口数が少なくなる・話さない
④怒る
⑤退席する・取材に出てこない

 怒りの度合いごとにまとめてみました。④⑤の場合、手遅れであることが多いです。できれば②、遅くても③になる前に対応が必要。早期発見・早期治療が必要なのは、病気も取材も同じです。

不機嫌な取材相手に対する処方箋

 それでは、怒りや不機嫌の原因別に、症状に応じた対応策を説明していきます。

取材が苦手

 一番多いパターンかもしれません。取材を受けるという行為は誰もが経験することではありません。面識のない人と話をするのが苦手という人も多くいます。怒ったり退席したりといった状況に悪化することはまれですが、「もうこれくらいでいいでしょう」と不機嫌に取材を終わらせようとする人は結構います。

 効果的なのは、場を和ますこと。雑談や取材相手の趣味の話をすることで、相手が話しやすい雰囲気をつくることが大切です。

 また、どうしても取材にならないという場合、取材を打ち切るというのも一つの手です。

実例1

 ある広告の取材で個人事業主をインタビューしたときのこと。取材を受けるのに不慣れだったのか、アピール点、強み、力を入れている業務など、何を聞いて無気力に「特にありません」としか答えてくれなかった。

 これ以上何を聞いても無駄と判断。会社ホームページの貧弱な情報から記事を書くしかないと腹を据え、取材予定1時間のところ30分弱で切り上げようと決め「それでは、取材は以上です。ありがとうございました」と通告した。

 すると、取材相手は急に慌てだし、仕事の内容について話し始めた。その内容はたどたどしいものであったが、記事にするには十分の内容。記事は無事完成し、取材相手にも喜んでもらえた。

 少々荒療治ですが、こちらが毅然とした態度を取ると、向こうの態度も変わることはよくあります。自社のPRにつながる広告取材の場合は特に効果が期待されます。

取材前に嫌なことがあった

 仕事でトラブルがあった、家族とけんかしたなど、ライターのあずかり知らない個人的なトラブルを取材でも引きずるパターン。この場合、相手に100%、いや5万%責任があると言っても過言ではありません。

 ですので、通常通り取材をしましょう。取材全般に言えますが、相手の空気にのまれないことが大切。相手が不機嫌で気まずい空気が漂っていても、おくせずひるまず、自分が聞きたい質問をぶつけていきましょう。

 相手もライターが悪くないのは分かっているので、不承不承ながら話してくれることが多いです。取材終わりに機嫌が直っていたらライターの勝利。自分で自分をほめてあげましょう。

取材中失礼なことを言った

 学歴、容姿、社会的地位など、人々はさまざまなコンプレックスを持って生きています。こちらが意識していなくても、相手が不快に思うような話題や言葉を発してしまうことがどうしても起きてしまいます。

実例2

 ある会社の社長の取材。高校卒業後、別の会社で長く修行をしたのちに起業した苦労人だった。私は起業までのいきさつを聞く際、別の取材対象者と勘違いしてしまい、「大学卒業後はどうされたんですか?」と聞いてしまった。

 幸い学歴などは全く気にしていない社長だったので「僕、大学は出ていないんですよ」と軽く訂正され、その後の取材も滞りなく進んだ。

 上記は何事もない“無症状”で終わったパターンですが、顔色を変えたり、口数などに表れたりする場合もないとは限りません。

 相手に失礼なことを言ったのですから、やはり謝罪が定石でしょう。慇懃な感じではなく、「お気にさわることを申し上げたかもしれません。申し訳ありません」とさらりと謝るのが自然です。

 また、これは社会人として批判されるかもしれませんが、相手が顔色を変えるなど症状が軽い場合、無視して取材を続けるのも一つの手。変に謝るとかえって火に油を注ぐことになりかねません。矢継ぎ早に質問をぶつけていって、リズミカルに取材をこなしてうやむやにしましょう。

まとめ

 事例を盛り込んでいると長くなりましたので、原因の⑤以降に対する処方箋は中編、後編に分けて紹介します。

 前編のまとめです。

不機嫌な取材相手への処方箋
①取材が苦手→を和ますのが基本。取材を打ち切る荒療治も
②取材前に嫌なことがあった→相手の空気にのまれないこと
③取材中失礼なことを言った→謝罪が定石。軽症な場合はスルーも

 後編へ続く。