「政策を書いてくれ」 ー選挙取材のエピソード ー

2023年4月2日

 こんにちは、「かく企画」社長の藤田です。

 かつてとある新聞社に勤めていましたが、2021年退職。現在はフリーランスのライターとして活動しています。

 人の出会いの数だけ、エピソードは生まれます。趣味や恋愛、そしてもちろん仕事でも。これまで40年と少し生きてきましたが、さまざまな人と出会ってきました。

 「学歴も会社も頼れない時代にどうやって生き延びるか」がこのブログのテーマですが、たまには脱線して、会社に勤めていた時代のエピソードを振り返りたいと思います。

 今回は、新聞記者をしていたころに取材した、ある地方都市での選挙についての話です。

町を二分する激しい選挙

 新聞記者時代、そしてフリーライターの今もそうですが、多様なジャンルの取材をしています。中でも選挙は公共性が高い一方で、人間の欲望や打算が最もドロドロと渦巻くイベントの一つです。

 一般の大多数の人にとっては「選挙?ああ、何かやっているな」といった程度でしょうが、立候補者とその周りを囲む支持者にとっては、自陣営の当選を目指し、文字通り血眼になって選挙運動をします。

 30歳前後のころだったでしょうか、私はとある地方都市の市長選挙の取材を担当しました。現職の市長に対し、新たに立候補した人が挑むという構図で、町を二分するような激しい戦いが繰り広げられていました。

 候補者を誹謗中傷するような出所不明の怪文章が飛び交うほどでした。怪文章の内容は今でも覚えていますが、このブログではとても書くことができないような内容です。

 選挙戦最終日、町の中心部の三差路で、お互いの陣営が道路を挟んで対峙し、自分たちへの投票を呼び掛け、結果的に住民たちがおびえる、といった異様な光景もありました。

新聞記者の選挙取材とは

 選挙では、新聞記者は旺盛に取材をし、いろいろな記事を書きます。

 選挙が始まる前から、立候補者の出馬表明会見、後援会の事務所開きなど、候補者を逐一追いかけます。

 選挙が始まってからも、街頭運動、選挙カーでの遊説、公民館やホールで開かれる個人演説会などを取材。さらに、こまめに事務所をのぞき、陣営幹部から情勢を聞き取ったり、事務所の雰囲気を見たり感じたりして、候補が当選するかどうかを予測します。

 テレビなどが当選確実を報じる際、「出口調査や情勢を加味し、当選確実を出しました」とアナウンサーが言いますが、「情勢」とは、このような日ごろの取材活動のことを指すのです。

 取材をもとに、それぞれの候補がどのような人物であるか、どのような選挙運動をしているかを記事にします。このほか、選挙が始まる前には、その地域がどのような課題や問題点を抱えているか、将来展望をどのように描いているかについても掲載します。

 地方都市の課題や問題点と言えば、人口減や医療サービスの縮小、商業施設の閉鎖や工場の撤退など、枚挙にいとまがありません。

 東京への一極集中が進む現代、地方は多くの問題を抱えているので、どうしても現職候補に少し不利な内容となってしまいます。このことについては、また機会があれば書きたいと思います。

誰にも褒められない記事

 この選挙のときも、上で挙げたような問題に加え、インフラ整備の是非など、さまざまな争点があり、それぞれ記事にしました。

 記事が掲載された日、現職候補の事務所に行くと、運動を取り仕切る幹部がすごい形相で詰め寄ってきました。

現職陣営の幹部
現職陣営の幹部

嘘ばっかり書きやがって! あんた、うちらを落とすつもりか

 こちらはしかるべき所に取材をして裏を取ってあるので、記事の内容は嘘ではありませんが、候補者らにはそのようなことは関係ありません。自分たちに不利な記事は、全てフェイクニュースと解釈しているのです。

 嘘だ、嘘でないとのやり取りがしばらく続き、その事務所を辞去。その足でもう一方の候補の事務所に行きました。

 ここでも、何人かの運動員が記事の内容を責めてきました。聞くと、記事での問題検証が甘く、現職寄りになっているとの言い分でした。

別の候補陣営<br>幹部A
別の候補陣営
幹部A

おたく、現職陣営に脅されとるのか?

別の候補陣営<br>幹部B
別の候補陣営
幹部B

権力に弱い御用新聞さんですね

 そのようなことを言う運動員もいました。もちろん脅されていませんし、脅されたとしても筆を曲げることはありません。

 かくして、両方の陣営から雑言を浴びせられ、身も心も疲れ果てました。

 一方でこんなことを考えました。

私

両方の陣営から怒られるということは、中立公正な記事が書けた証拠だろう

 五輪メダリストの有森裕子さんではありませんが、誰にも褒められなかった記事を自分で褒めることにしました。

あってはならない誘い

 そんな選挙取材で、あってはならない依頼をされたことがあります。

 それは、ある候補が立候補を表明してすぐのことでした。取材でお世話になっていた方(仮にAさんとします)が、私の元を訪れてきました。

 二つ三つよもやま話をした後、彼は声を低くして切り出してきました。

Aさん
Aさん

○○候補の政策を書いてほしい

 聞くと、その候補を応援する人で政策に明るかったり、文章が書けたりする人がいなかったため、私に頼んだらどうか、との声が上がったとのことでした。

Aさん
Aさん

もちろんタダとは言いません。力になってもらえないだろうか

 当時は、公正な立場で取材をしなければいけないマスコミの記者でしたので、片方の陣営の選挙運動に加担するというのは倫理的にみて受けられるはずもありません。頼られているという優越感がなかったかと言えば嘘になりますが、もしバレたときは、一大スキャンダルとなり得ます。

私

申し訳ないですが、受けられません。困ります

 さすがに丁重にお断りしました。

 ちなみに、今のフリーランスの立場だったら、協力しても問題ないと思いますので、受けていると思います。

 実際これまでに、複数の政治家の方から政策立案、演説原稿の作成などについて相談をいただき、実際に当選のお手伝いをしたこともあります。

私

皆さまの当選のお力になればと思います。現職、新顔問いません。

もちろん秘密厳守! まずはお問い合わせ欄よりご相談ください。

まとめ ー政治家と癒着するマスコミー

 マスコミと政治家の癒着は決して珍しいことではありません。

 その昔、ある新聞記者が時の政権与党の領袖とつながり、政党や内閣の人事案を練っていたという話もあります。最近でも、フリーの記者が時の首相に寿司をおごってもらい、テレビで政権擁護の話しかしない、などと週刊誌で指摘されていました。

 今回は、小さな地方都市での選挙取材の話でした。ただ、メディアの大小にかかわらず、取材対象者との間合いの取り方は、記者の永遠の課題だと思います。もはや報道記事を書いてない自分にとっては関係のない話となってしまいましたが、物事を冷静に、公正に見る目は持ち続けたいと思います。

新聞記者

Posted by かく企画