新聞記者の宿直勤務
みなさん、こんにちは。元新聞記者の仮面ライターです。宿直勤務がある仕事はいろいろあると思いますが、新聞記者もその一つです。
今回は新聞記者の宿直勤務を紹介したいと思います。
どんな夜を過ごすのか
新聞記者の宿直勤務スタートは夕方です。昼間の仕事を終え、午後5時くらいにデスク席近くに座ります。
デスクが監修して記事となったものを辞書や資料、過去記事などを使って、間違えがないか調べます。校閲記者がいるのですが、それとは別に調べます。
私が新聞記者になった四半世紀前は、校閲記者が地域のニュースも確認していました。ところが、経営が苦しくなった新聞社は、まず校閲記者を減らしてしまいました。その結果、記事を出している部署が調べないと、地域ニュースのミスは防げないという体制になりました。
次から次へと記事が出てくるのですが、なかなか調べは進みません。ベテラン記者は、資料を出してくれなかったり、出すように依頼すると怒り始めたりします。
そうしているうちに、「ケイデン」の時間が来ます。ケイデンというのは、警戒電話のことです。館内の警察本部、警察署、消防、海上保安本部などに、片っ端から電話をかけていきます。
私が記者になりたての頃に、警察署の統廃合が進んだので、電話をかける先はずいぶん減ったと聞かされましたが、それでも、すべてかけ終わるのに30分くらいはかかりました。
名目はいち早く事件・事故をキャッチするということになっています。
「何もないよ」と言われたのに、5分後に広報発表されるなんてこともよくあり、ケイデンになんの意味があるのかわからないと、よく悪態をついていました。
ところが、本当にまれにですが大きな事件の端緒をケイデンで掴む人もいます。
元同僚は、ケイデンをかけたところ、電話先が少し騒がしかったので、「何かあったんですか?」と、当直主任に聞きました。
この元同僚はのんびり屋で、日中に取材すべきだった「新設交番のお知らせ」という広報のことをケイデンのついでに聞こうと思い、適当な気持ちで電話をしたそうです。
電話相手の当直主任とは日頃からよく話をしていた間柄。「そういわれたらうるさいな。ちょっと待っててや」
しばらくすると当直主任が言いました。
「なんか事件みたいや」
「へぇ、事件ですか、大きな感じですか、小さい感じですか」
このやる気のない質問が功を奏しました。当直主任再びが聞いてきてくれたところ、小さな子どもがさらわれたという事件でした。
「大きな事件なんですね。それで、新設交番のことですが……」
横にいた伝説の事件記者だった上司がメモを差し出しました。
「その電話、絶対に切るな」
誘拐事件は報道発表されましたが、元同僚が覚知したおかげで、発表の1時間くらい前には全容を把握することが出来ました。
大きな事件は発表がありますが、複数のマスコミが一斉に質問をするので、なかなか知りたいことがわかりません。
この事件では、ケイデンが大きく影響をしました。
深夜に近づき、たまる疲労
ケイデンは一晩に4、5回かけます。
ケイデンが終わるか終わらないかと思っていると、広報発表が出てきます。とにかくすぐに電話をしないと、発表した警察署には繋がらなくなります。先に電話をしたマスコミの順に広報担当者が応答するからです。
数分おきに短縮ボタンを押して、大事件かどうかを判断し、デスクに報告。追加取材が必要であれば、自分を含め、誰かを警察署や現場に急行させることになります。
記者の職業病のようなもので、まったく広報発表がないと、大事件が起こっていて発表に手間がかかっているのではないかとか、ファックスの調子が悪いのではないかとか、勝手に想像をして、決められた時間でもないのにケイデンをかけることがありました。
デスクの仕事が一段落すると、夕食の手配もしなくてはいけません。食にこだわるデスクと組むと面倒この上ありません。
一番ありがたいのは、「コンビニで適当に買うから、順番に買いに行こう」というデスクです。
新聞社には、締切時間が複数あるので、締め切り前になると緊張が高まります。
また、定時のテレビニュースをチェックする必要もあります。警察署へ電話をして待たされている間に、記事の確認をしながらテレビニュースも見るということもしょっちゅうでした。
整理部にも宿直があってびっくり
私がびっくりしたのは、整理部にも宿直勤務があったことです。
以前、ブログで新聞記者には2つの職種があるという話を紹介しました。
私は、現場記者を数年した後、整理記者になりました。
整理記者は自分で取材をするわけでなないので、宿直はないと思いこんでいました。
でも、残念ながらありました。
現場記者は、本社であれば数人で泊まるのですが、整理記者は1人だけで宿直勤務をします。
何をするのかというと、一大事が起きたときに、(帰宅した)上司の指示を受けながら、みんなが出社してくるまでに号外発行の準備をするための待機です。
ちなみに、それほどのことが、最終締切後から翌朝までに起きることは、半世紀に1回あるかないかではないでしょうか?
整理記者の宿直勤務についての賛否は脇に置き、「マスコミとはそういう想定外のときに対応できなければいけない」というのが、すべての行動原理になっていました。
宿直勤務は縮小
ただ、最近は、その鬼のような行動原理はずいぶん緩やかになってきました。
本社以外の取材網では原則、宿直勤務がなくなりました。
そういうと聞こえは良いのですが、逆に言えば、本社で宿直勤務をしている人たちが大変になりました。地域取材網をカバーするからです。
また、整理記者の宿直も多くのマスコミでなくなったと聞いています。半世紀に1回あるかないかのために、毎日当番制で宿直することを見直したとしたら、大きな変化、いや前進です。
宿直は体に悪い
当然ですが、人間の生活パターンに反する宿直勤務は体に悪いです。
宿直勤務の内容紹介の続きになりますが、午前2時くらいまで、頭を能動的にフル稼働させた後は、簡単な飲み会があります。
絶対にアルコールを飲まなければいけないわけではありませんが、寝るためにも少量は口にする人がほとんどでした。
翌朝午前7時くらいには、朝のテレビニュースチェックが始まります。宿直勤務が終わるのは午後2時。
下手をすると、宿直勤務後に雑用をすることになります。私は運が悪かったので、宿直勤務明けは、午後6時くらいまで働いていました。
新聞記者以外でも、警察官や消防職員、看護師、警備員など宿直をする仕事はたくさんあります。
ある時、ベテラン看護師さんが口にした言葉に思わずうなずきました。
「いつも昼夜逆転の仕事をしていたら、大変かもしれないけれど、夜の仕事の生活リズムに慣れてしまえばいい。でも、時々12時間ひっくり返る生活をしていると、体がボロボロになっていく」
私は幸運なことに50代になる前に、記者職から離れました。収入は驚くほど減りましたが、健康を考えると良かったのかもしれません。今日も定時に眠りにつける幸せを噛み締めています。
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