取材対象者に囲まれてしまったら ―複数人への同時取材ー

2023年7月11日

 みなさん、こんにちは。「かく企画」社員の仮面ライターです。 私は記者をしていた時に、困ったことがありました。それは、複数の人たちが同時に私に話をするという状況での取材です。

 どうして私がそういう状況が苦手だったのかを含めて振り返り、取材方法についてまとめてみたいと思います。

 今回の話は、新人や若手記者、フリーランスのライターとして取材分野を増やしたい方を想定しています。

取材の基本は「1対1」

 通常、記者の取材は1対1です。記者1人が取材対象者1人の話を聞きます。

 記者会見などの場合は、報道各社の記者がいるので、複数記者対取材対象者1人という状況になることがあります。

 記者の取材にとって最も大事なのは、誰が取材に対して話をしたかです。1対1であれば、取材の冒頭に名前、どこに所属しているか、年齢、住所などを確認します。場合によっては、取材の最後に確認するとうこともあります。

 記者会見とは逆の状況が発生する取材現場があります。つまり、記者1人が複数の人の話を同時に聞くという場面です。

 それは、事故や災害の取材などです。記者は事故現場や被災地で、発生当時のことを把握するために人に話を聞きます。

 2人組くらいだとまだいいのですが、4人以上の人が、記者の取材に一斉に話をするということがあります。特に、事故現場では人は興奮しているので、話がまとまりません。こういう時は、誰が発言したのかという確認が困難になります。

 私の経験では、取材対象者が複数人の場合、話す内容がいい加減という経験がありました。やはり、「取材に対して、自分が答えている」という認識がないと、ついつい「たぶん」という内容を事実であるかのように語ってしまうのかもしれません。しかも、隣に自分の発言を肯定してくれる人がいると、あいまいな話がどんどん進んでしまいます。

悪意ある人たちに囲まれた取材

 脱線します。

 その昔記者をしていた時に、地方自体の議員や職員ら10人くらいに囲まれたことがありました。

 元々は、ほかのメディアが報じた話でした。小さな自治体にある小山の木をすべて切り倒して、桜の木を植え替えるというアイデアを町長が言い出しました。

 ところが、町長の考えを不安に思う人たちがいました。木をすべて切り倒して、桜の木が立派に育つまでの間に、小山が崩れるのではないか、という心配です。町長のアイデアと、住民の不安の声が報じられました。

 「確かに、木がない山は崩れるかもしれない。けれど、どんな山か見てみないとわからないなぁ」と、私は思っていました。

 一報があってから間もなくして、地盤などに詳しい研究者が現地を見に行くという話を知りました。そこで私は取材に出かけました。

 現場には2人の研究者、それから、私とテレビの記者。そしてテレビカメラマン。研究者の人に名刺を渡し、この日の視察予定について話を聞きました。

 すると、私たちは、町の助役(※当時は副町長という呼び方ではなかった)、町議会議員、職員らに囲まれました。そして、町長のアイデアに難癖をつけるなと、大声で怒り始めました。

 気の毒だったのは研究者の2人でした。私たちとは離され、罵声を浴びせられていました。

「税金で研究しているくせに」

「無駄なことをしてないで世の中に役立つことをしろ」

 言いたい放題です。2人はじっと耐えていました。

 私はテレビカメラマンと2人で、ほかの職員らに囲まれました。

 助役の男が言いました。

 「昔はな、人柱といって、何か大きな公共事業をする時には、何人か死んだもんだ。小さいことをがたがた言うな」

 というようなことを私たちに向かって言い続けました。カメラマンは複数人からカメラを押さえつけられて、撮影を妨害されてしまいました。

 当時は記者になったばかりで、こういう状況をどうしたら良いかわかりませんでした。今だったら、助役の言葉をきちんと記事にしてしまうと思います。

複数人への取材はどうすればいいのか

 脱線話から言えるのは、「これは」という話については、発言者をはっきりさせ、発言内容を確認することです。

 助役が「人が死んだってかまわない」とも受け取られかねない発言をしたのであれば、自分が聞いたことを助役に確認します。録音をしていればベストですが、公職にある人が口にした発言です。確認して記事にするのが仕事です。そもそも、恫喝まがいのことを助役や職員たちが研究者にしている事自体がニュースです。それを書かない理由はないと思います。

 もし、「ひどい発言」が助役ではなく、複数職員による場合はどうでしょうか。私なら、可能な範囲でメモを書き続けます。音源も取ります。とにかく、誰が発言したかを後で確認するために、顔を覚えておきます。できるならば写真も撮っておきます。そして、部長や課長であれば、名前を出して原稿を書きます。(※デスク判断で削られるかもしれませんが)

 一方、上記のような「もめる」取材ではなく、事故や災害の現場ではどうしたら良いでしょうか?

 複数人の取材は、話があっちに行ったり、こっちに行ったりするので、可能な限り、話をコントロールすることに努めます。ただ、集団で取材に答えるメリットもあるので、完全にコントロールする必要はないと思います。

 話を聞いていると、出来事をよくわかっている人、もしくは、その集団の「ボス」的存在の人に気がつくはずです。

 一通り話を聞いた後に、そのような人に確認をとると、発言者を明確にすることが出来ます。その作業をしないと、「現場にいた人たちの話」という、ぼやけた内容になってしまいます。

まとめ

 複数人を相手に取材をする場合

  • 誰が発言しているか分かる範囲でメモを書き続ける
  • 録音する
  • 集団の「ボス」的な人物をみつける
  • 記事化に値する話は、集団取材後に個別に確認する

 集団への取材は困難な点がありますが、取材を受ける人は複数人で話す安心感によって、心に溜まっていたことを言ってくれるチャンスでもあります。

 末筆ですが、記者をクビになった私の話ですので、参考程度に読んでいただけたら幸いです。

新聞記者

Posted by かく企画