取材拒否や記者から逃げる人への対応

2023年7月1日

 みなさん、こんにちは。「かく企画」社員の仮面ライターです。私は昔、新聞記者をしていました。

 私は「悪いこと」をした疑いがある人を直接取材した経験があります。その中で、取材を拒否し、逃げ続けられた時にどうしたかというお話を紹介したいと思います。

警察取材だけが「悪いこと」をした人の取材ではない

 世の中で「悪い」とされる行いは多様です。刑法に触れて警察に逮捕されるような「悪い」こともあれば、逮捕はされないけれど、道徳的に「悪い」ことだってあります。

 政治家がする行いでは、公職選挙法違反などの法に触れなくても、政治家としての倫理に触れれば、「悪い」と言われます。(最近は、「政治家の倫理」という言葉が死語になりつつありますが)

 刑法犯の場合、「悪いこと」をした疑いがある人がいると、警察は裁判所から令状を取って逮捕し調べます。その後、起訴されると裁判になります。そして、有罪になった時に、初めて「悪いこと」した認定が下るわけです。行政機関が「悪いこと」を認定するイメージは、多くの人にとって刑法犯かもしれません。

 警察以外にも、「悪いこと」をした人を調べる行政機関はあります。例えば、独占禁止法を扱う公正取引委員会も、裁判官へ許可状をもらった後に捜査や差し押さえをします。

(※資料:公正取引委員会のHPより「犯則調査権限」 https://www.jftc.go.jp/dk/seido/hansoku.html)。

 また、国税局も税金をめぐって「悪いこと」をした人や会社を調査します。

マスコミは悪い人に直接取材をしているのか

 多くの人が思っているより、マスコミは「悪いこと」の容疑者に直接取材をしていません。

 警察が逮捕した人であれば、広報担当の警察官から間接的に話を聞きます。容疑を認めているのか、どんな言い分を主張しているかなどです。

 直接取材をしない理由はいくつかあると思います。取材をしようと思えば出来るのでしょうが、時間や諸手続きを考えた上での判断だと思います。また、日本の警察が、マスコミに対して嘘は言っていないだろうという前提があるかもしれません。

不正情報から取材出発 企業名までは判明

 かなり昔の話ですが、建物の設備部品会社が不正をしているという情報をキャッチしました。企業名しかわからず、このまま取材を直接してもとぼけられてしまうという状況でした。

 同じ業界の関係者で、噂の企業とは繋がりがない人たちを探し、取材を続けていると税金についての不正ではないかということが見えてきました。

 公的な書類を集めて分析すると、確かに税金の不正をした形跡があります。荒い数字ですが、不正の金額についてもわかってきました。額は見過ごせないものでした。

 その他いくつかの情報を集める取材を終わらせ、実際にその企業を訪問して、直接取材できるところまでにこぎつけることができました。

アポなし突撃取材 逃げ続ける取材対象者

 アポを取らずに直接、企業に行きました。規模が大きな会社ではなかったので社長への面会をお願いしました。

 15分ほど建物玄関で待ちました。結局、社長は不在という返事でした。要件を簡潔に伝えて、社長への取材をお願いしましたが、受付をした社員は、はっきりとした返事はしませんでした。

 数日待ちましたが返事がありません。再度確認のために企業側に電話をしたのですが、暖簾に腕押しの対応。次の日の朝から、社長宅を朝のかなり早い時間から張り込みました。昼前まで待ちましたが、接触はできません。今度は夕方から夜遅くまで、家の前や周辺で待ちました。

 時々、家のインターホンは押しましたが返事はなし。しかし、電気メーターは回っています。家人らしき人が外出する際には声をかけるのですが、「わかりません」としか言いません。

「もう、いいんじゃないの?」

 3日目の張り込みが終わりました。デスクに報告すると、「もう、いいんじゃないの?」

 デスクからすると、そこまでやってだめなら他の取材をして欲しいのでしょう。しかし、実際に、企業や自宅まで行った記者の見立てでは、ここまで徹底的に逃げるには何かあると思いました。

 4日目の朝早くも社長宅に行きました。この日の午前中も取材は空振り。改めて、書面で取材依頼を会社側へ提出しましたが、まったく返事がありません。

 これまでに取材した業界関係者から紹介された別の業者社長に会い、公的書類などを見てもらいました。すると、税金以外でも労務などで問題があるという情報を教えてくれました。

 「これ、結構悪い会社ですよ」

 関係者の言葉に、デスクの言葉は無視して取材を続行することにしました。

バルサン作戦発動

 これまでの取材情報から把握した取引先などすべてを取材することにしました。

 主要取引先銀行、仕入先企業、納入先。それから、関係する行政機関にも当たりました。

 予め、取材目的を書いた書面を手に持って、一つ一つの会社や役所を回りました。

 銀行や行政機関は、丁寧な話し方で対応はしますが、「協力します」とは言いません。「自分たちも調べることを検討します」というようなことを言われた記憶があります。

 検討するけど約束はしていないし、もし不正がわかっても私に話すかわかりません。でも、手元にあるリストの組織への取材を続けました。

隅々まで効いた? 「バルサン作戦」 

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こうした取材を私は「バルサン作戦」と名付けました。こういう作戦名をつけると、「悪いことをした人はゴキブリなのか?」と思う方がいるかもしれません。もしかしたら、人権意識がないと憤慨する方がいるかもしれません。

 ただ、こうして片っ端から関係する人に取材をしていると、実際に成果が出ました。

 会社の総務担当から電話がかかってきました。「書面で回答する。自社が調べを受けていることについて、可能な限りのコメントを出すので、それを取材への答えとして欲しい」という返事でした。

 私としては、出来ればこういう取材はしたくありませんでした。かなり時間も手間もかかります。

 この時の「悪いこと」は、私欲のために社長が「悪いこと」をしていたという話でした。取材過程で、会社を退職した人や現職社員にも話を聞く機会があり、動機も見えてきました。

 私が銀行や納入先に取材をすれば、影響があるということは想像ができました。もし、きちんと取材対応をしたとしても、私は記事を書いたと思います。

 ただ、社長が取材を受けないがために、お金を貸している銀行や顧客である納入先に、記者が来たことでもっと悪い影響が出ることになりました。

 実際に納入先の社長は怒っていました。私に対しではなく、取材から逃げた社長に対してです。

「失敗や悪いことを責める気はない。でも、逃げるという態度は、商売で繋がってきた相手として腹が立つ」

 納入先の社長はそう言って、その場で「悪いこと」をした会社との取引を止めるように、担当部長に指示を出しました。

「取材に来てくださってありがとう。私はあなたのおかげで、不正を反省しない企業との取引を止めることができました」

 私は複雑な気持ちでした。目の前で、一つの企業が大きな仕事を失う瞬間を目にしたからです。しかも、それが自分の取材によって起こったのです。

まとめ

 この取材後、数回、「バルサン作戦」を発動しました。

 本当は使いたくない取材方法でした。私は致し方ない時に限るようにしました。

 ちなみに、バルサン作戦の勝率は6割です。あとの4割は、バルサン作戦だけでは取材対応に応じないため、別の方法を採用しました。

 「バルサン作戦」の社内評価ですが微妙です。

 デスクは結果が出た時は評価をしますが、時間がかかることを嫌がる人が結構います。警察の事件のような「悪いこと」は、待っていればいつか発表はされます。(他社に先を越されて「抜かれ」にはなりますが)

 しかし、発表がない「悪いこと」は、実際に取材をしてみないとわかりません。

 社会部では、警察取材をしてきた人が「悪いこと」担当デスクになります。警察以外の話となると、極端にテンションが下がる傾向があります。これは、他の新聞社の記者に聞いても同じでした。

 私の場合、取材がしつこく時間がかったため、社内評価は芳しくありませんでした。それでも、もし、昔に戻って、警察以外の「悪いこと」担当記者になったら同じことをするだろうと思います。

新聞記者

Posted by かく企画