村木美涼「箱とキツネと、パイナップル」

2024年4月26日

 みなさん、こんにちは。「かく企画」社員の仮面ライターです。

 今回は、小説紹介シリーズです。村木美涼さんの「箱とキツネと、パイナップル」が今回の小説です。第6回新潮ミステリー大賞優秀賞の受賞作です。

短くあらすじ

 あらすじをお伝えする前に、みなさんはタイトルを読んでどう思いましたか?

 私は、まったくストーリーが想像できませんでした。無茶苦茶な取り合わせです。しかも、タイトルの途中に読点。「なんだこりゃ」という感じです。

 あらすじですが、大学を卒業し、スポーツ用品会社に就職した主人公。住み始めたアパートでは、メールによる大家の「回覧板」がしばしば届きます。他の住人たちとも距離が近くにぎやかなアパートです。

 一方で、怪現象が起き、キツネがいるのではないかと主人公は考え始めます。

 どういうわけか、隣の住人にだけは会うことがなく、変な夢を見ます。幼いときに亡くなった弟。主人公は、幼い日の自分を責め続けるあまり、夢遊病だったことを知ります。

最初から最後までだまされた

 良い意味で、最初から最後までだまされました。

 タイトルからして変わっています。中盤までミステリーらしい展開はないのも、「あれ」という感じ。

 だからといって、つまらないということはなく、アパートの住人同士の関わり合いがおもしろくて、読ませます。登場人物が目に浮かぶからだと思います。

 私は転勤族で、アパート暮らしを転々としていたので、冒頭の新生活スタートのところは、懐かしい日々が頭に浮かびました。

 時々、「おお、ミステリーの始まりか」と思うのですが、普通でも起きそうな常識的な出来ばかり。でも、なぜかおもしろいストーリーです。最後まで、大家が姿を現さないというのも、なかなかの仕掛けです。

 本の装釘は、「新潮社装幀室」によるものだそうです。パステルカラー調のデザインは、小説の話をすべて再現したように私は受け止めました。気に入ってしまいました。

選考会が紛糾

 新潮社のホームページ( https://www.shinchosha.co.jp/book/353091/ )によると、選考会が紛糾したそうです。

 最後の結末を読んで、「どうして」とか「これってミステリーなの」という意見が出たのでしょうか。そういう選考会の会話を聞いてみたくなりました。

 私の意見は、「こういうミステリーも読みたい」です。ゆっくりとした感じの文体ですが、気がついてみれば引き込まれていて、最後まで楽しんで読むことができました。

 この小説を読んだ後は、私の平凡な生活もみる角度によってはおもしろいかも、と自分でも思えてきました。村木さんは、キツネなのかもしれません。やられました。

 ちょっと疲れた時におすすめの一冊です。年末年始に読んでみてはどうでしょうか。

小説執筆

Posted by kamenw