生馬直樹「夏をなくした少年たち」
「かく企画」社員の仮面ライターです。小説を読むのが趣味の私ですが、今ところ2023年のマイ・ベスト小説が出ました。その作品は、2016年の新潮ミステリー大賞受賞作で、生馬直樹さんの「夏をなくした少年たち」です。
2023年はあと約3ヶ月。その間に、この小説を超える作品に出会うことはあるのか。これからの読書も楽しくなりそうです。
あらすじを短く紹介
主人公の少年、タクミたちは、思い出づくりのために夜の登山に出かけた。仲間1人の小さな妹もついてきたが足手まといになり、頂上まで後少しのところで1人待たせることに。ところが雨が激しく降り出した。暗闇の中、慌てて戻ると妹は死んでいた。
タクミたちより年上の聖剣は、その奇行のために地域では有名な少年だった。聖剣は、タクミたちの後をつけて山を登っていたため、少女殺しを疑われたが、本人も大けがを負っていて事件は迷宮入りした。
タクミは成人し、刑事になった。ある日、聖剣と思われる男が殺された。タクミは休暇を取り、少年時代の迷宮入り事件とともに解明しようとする。
故郷に戻り事件を調べていると、当時の仲間の娘が誘拐される。その誘拐犯を追うタクミたちは、少年時代の事件がどうして起きたのかを知ることになる。そして、聖剣が死んだ理由も明らかになる。
思い出される 少年期の記憶
まずもって、人物がしっかりと描かれています。特に、奇行で有名だった聖剣と、主人公タクミの仲間の雪丸が、とても印象的でした。
前半の少年時代の話は、ページ数としては多いのですが、長く感じることはありません。
それは、小学高学年くらいから始まる、「物心がつく時期」を描いているからです。読みながら、自分の少年期に感じた空気を思い出しました。
聖剣と雪丸は、困った少年です。特に、タクミたちより年上の聖剣は、まともではないため、地域では鼻つまみ者です。奇怪な少年が抱えるものをその行動から描き、後にその理由を明らかにしていきます。
すべての伏線が最後に回収される謎解きは圧巻でした。それでいて、伏線は張り巡らされているという印象を与えず、腕力で話を収束させていないところがすごいと思いました。
タクミ、友人のケイ、妹を失った国実、雪丸。小学5、6年生は悲しい時期かもしれません。ただ息を吸って吐くだけでもなにか苛立ちを感じる年齢。中学生になれば、少しは大人から自由を与えられ始めるけれど、まだ、そうではない年齢。
もちろん、中学、高校も嫌なことだらけだけど、小学校高学年特有の息苦しさを思い出しました。
忘れられない一節
今回の忘れられない一節を紹介します。本作品の180ページです。このセリフを紹介して、今回は終わりにしたいと思います。
「誰にだってプライドがあります。見せたくない弱みもあるでしょう。さらしたくない痛みもあるでしょう。それを、なんの必要もないのに、ただ自分が気にくわないから、すっきりしないからという浅はかな理由で、意地悪にあばこうとしてはいけないんです」
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