ライティング仕事をたくさんくれるディレクターは良いディレクターか

 こんにちは、「かく企画」社長の藤田です。新聞社で勤務ののち、フリーライターとして新聞、機関誌、ネットメディアなど、さまざまな媒体を舞台に取材・執筆をしています。

 ライティング仕事において、執筆媒体を管理しているクライアントと直接取引をするのではなく、自分とクライアントとの間にディレクターや編集者を介在させ、仕事を請け負うケースも多いかと思います。

 仕事を受ける身としては、案件を次から次へと回してくれるディレクター・編集者は本当にありがたい存在です。しかし、言われるままに仕事を受け、悪い意味でライティングマシーンのようになってはいないでしょうか。

 仕事をたくさんくれるディレクターは、ライターにとって良いディレクターか-。今回は、40年以上前に米国で提唱された経営戦略に関するフレームワークを基に、仕事を斡旋する側と受ける側、それぞれの立ち位置を考えてみます。

M・ポーターの「競争優位の戦略」

 米国の経営学者であるマイケル・ポーター(1947-)は、1980年に著書『競争の戦略』の中で、競合他社に打ち勝つために企業が取るべき「3つの基本戦略」というものを提唱しました。40年以上も前に出されているにもかかわらず、いまだに企業コンサルティングかいわいでは実践されている息の長いフレームワークです。

 3つの基本戦略とは、「コスト・リーダーシップ戦略」「差別化戦略」「集中戦略」。ポーターはこのいずれかを取ることで、ライバルに対する競争優位性を確保できると主張したのです。

 以下、それぞれの戦略を具体的に見ていきたいと思います。

コスト・リーダーシップ戦略

 コスト・リーダーシップ戦略とは、ライバルよりも低コストを目指すこと。そのために重要なのは、業務効率化のために生産規模を拡大していくことです。

 例えば工場の場合、一つの生産ラインで1日8時間稼働するよりも、三つのラインで24時間稼働させたほうが、製品1個当たりの人件費や光熱費、土地代などが安くなり、コストを下げることができます。

 低コストを実現することで、ライバルよりも高い利益率を得ることができ、価格競争に打ち勝つことができるようになります。

差別化戦略

 これに対し差別化戦略とは、製品・サービスに独自性を持たせ、買い手に「この製品は特殊だ」と思わせることで独自のポジションを築く作戦です。

 古くよりCMで差別化戦略を図っている製品として思いつくのは「ネスカフェ・ゴールドブレンド」ではないでしょうか。「違いが分かる男」として作家の遠藤周作さん、演出家の宮本亜門さんらを起用し、他のインスタントコーヒーとは違うことを視聴者に植え付けていました。

 何を隠そうこの私も、違いを植え付けられた一人です。ゴールドブレンドと聞くだけで、少しリッチな気分になります。味もおいしいですよね。

 差別化するものとしては、品質、デザイン、ブランドイメージ、サービスなど、さまざまな切り口が上げられます。

集中戦略

 特定の顧客層、製品、地域など狭い範囲にターゲットを絞り、競争優位を得る戦略です。差別化戦略と似ていますが、業界全体ではなく、特定の市場に経営資源を集中することが特徴。「ニッチ戦略」とも呼ばれます。

 集中戦略は、主に中小企業、零細企業、個人事業主が取る戦略。大企業の手が届かないところに入り込み、低コストを実現したり、差別化を図ったりします。

 集中戦略は、さらにコストダウンを重視するか、差別化を重視するかで二つに分けられます。

ライティング市場に置き換えてみると

 上記を踏まえ、ライターとディレクター・編集者がそれぞれどの戦略をとっているかを考えてみます。なお、提唱者であるポーター自身は2つ以上の戦略を一度にとることは困難としています。ですので「コスト・リーダーシップ戦略をとりながら集中戦略も行う」というのはナシとします。

ディレクター・編集者はコスト重視

 ライティング市場において、ディレクター・編集者は大手の事業者であると言えます。「いや、うちは零細プロダクションだ」と反論する方がいるかもしれませんが、個人事業主であるライターからみると、大きな存在であることに変わりありません。

 そこで望ましいのは、コスト・リーダーシップ戦略により扱う案件を増やすことです。ここでいうコストは、ライターに支払う原稿料。つまりできるだけ多くの案件を取り扱い、それを多くのライターに委託し、しかも支払う原稿料を可能な限り安価にすることで、生き残りを図っていると言えます。

ライターは集中戦略で生き残りを図る

 一方、多くのライターが目指すべきなのは、集中戦略ではないでしょうか。

 もちろん「広い案件をキャパシティーが許す限り多く取る」という主義の人もいるとは思います。しかし記事単価をアップさせ、売り上げを増やすためには、得意ジャンルや強み、専門性を高めることが王道となります。

 特に働き方の多様化が進み、フリーライターの数がますます増えている昨今、集中戦略は今まで以上に重要となってきます。特に表現力や取材力に磨きをかけて差別化を進めることで、尖った文章や味わいのある文章を紡ぎ出すことができます。

まとめ 安く使われず、自分の書きたい仕事を見つめよう

 以上をまとめると次の通りになります。

・仕事を仲介する立場=低コストで数をこなす(コスト・リーダーシップ戦略)

・仕事を受ける立場=特定分野の専門性高める(集中戦略)

 暴論の感は否めませんが、仕事を仲介する立場と受ける立場、それぞれで戦略が異なっていることは間違いありません。この点を自覚することで、ライターが仕事を受ける際の視野が少しは広がるかと思います。

 とはいえ、仕事を発注してくださる人に対して、疑って掛かるような書きぶりになってしまいました。お世話になっているディレクターや編集者の方々が本稿を読まないことを心から願います。

 さらに今回の考察から、ライターの心得えとして以下の2点が浮かび上がります。

・自分を安売りしない

・書きたいことは何かを考える

 ディレクター・編集者側のコスト・リーダーシップ戦略の術中にはまり、安価な原稿料の仕事を漫然と引き受けていては、経済的な拡大は望めませんし、ライターとしての成長も鈍化します。

 日々仕事を与えられる環境に感謝をしつつ、ディレクター・編集者とはWin-Winの関係を望みたいもの。さらに目先の仕事にとびつくだけではなく、自分が本当にやりたい仕事は何か、書きたい記事とは何かを見つめ直すことも大切です。

 自戒を込めて、そのように思います。