衆議院解散後の「事実上の選挙戦」。「事実上」の意味は?なぜ「事実上」と付ける?

2024年10月22日

 こんにちは。「かく企画」社長の藤田です。現在はフリーライターとしてさまざまな記事を書いていますが、以前は新聞社に勤務し、記者と営業職を経験しました。

 さて今回は、当サイトの読者の質問に答えたいと思います。

 以下のような質問をいただきました。

 「政治とお金の問題」をきっかけに、苦手な政治のニュースも見るようにしています。

 この間、石破内閣が誕生し、衆議院が解散されました。そのときのニュースで「事実上の選挙戦が始まりました」と言っていたのですが、「事実上」とはどういう意味でしょうか?

 なぜわざわざ「事実上」と付けているのでしょうか? 分かりやすい解説をお願いいたします。

30代 女性

 2024年10月9日に衆議院が解散しました。この質問は、解散翌日の10日にいただいたものです。

 冒頭から結論めいたものになってしまいますが、衆議院選挙の公示までは「選挙運動」をしてはいけないために、「事実上」と付けているのです。

 以下、詳しく解説していきたいと思います。

選挙の流れ

 本題に入る前に、議員選挙の大まかな流れについて説明しておきたいと思います。

 議会が解散したり、議員の任期が満了を迎えたりすると、選挙により新しい議員を選ばなくてはなりません。この選挙を始めることを「公示」「告示」と言います。衆議院の総選挙、参議院の通常選挙の場合は「公示」と言われ、地方自治体の議員選挙や衆議院・参議院の補欠選挙などでは「告示」と呼びます。

 その後、選挙運動期間を経たのちに、投票日を迎えます。投票日と同じ日(場合によっては翌日以降)に開票が行われ、新しい議員が選ばれます。

選挙運動と政治活動

 選挙運動期間とは、選挙の公示(告示)日に立候補の届け出をしてから投票日の前日までの間を指します。選挙運動は、この期間中にしか行うことができず、それ以外の期間に行うと「事前運動」として処罰の対象となります。

選挙運動とは

 それでは選挙運動とは一体何を指すのでしょうか。判例などによると、「特定の選挙について、特定の候補者の当選を目的として、投票を得又は得させるために直接又は間接に必要かつ有利な行為」と定義されています。

 かみ砕いて言うと、①選挙を特定した上で、②特定の候補者について、③得票の働きかけを行うこと―の3要素を満たした運動のことを選挙運動と呼ぶのです。

 例えば、選挙期間中以外で「次の衆議院選挙で○○候補を当選させてください」と演説するのは事前運動なのでアウトということになります。

政治活動とは

 とはいえ実際のところ、政治家の演説は年中どこかで行われています。「あれば事前運動なので違法ではないか」と思う方がいるかもしれませんが、これらの活動は「政治活動」と呼ばれ、選挙運動とは明確に区別されています。

 演説をよくよく聴いていると「○○党を押し上げてください」「○○候補の支援をお願いいたします」など、漠然と支持を求めるような呼び掛けに終始しています。特定の選挙で特定の候補に投票する呼び掛けではないため政治活動とみなされ、とがめられることはありません。

 もし、選挙運動期間中でもないのに「次の選挙で○○候補を当選させてください」と言っている政治家がいたら、それは事前運動にあたりますので、お近くの選挙管理委員会などに通報することができます。

公示までは選挙運動不可なので「事実上」を付ける

 本題に戻ります。

 衆議院が解散し、総選挙が公示されるまでの間は選挙期間に当たりません。政治活動は可能ですが選挙運動は禁じられます。

 しかし各党の政治家は、間もなく訪れる選挙に照準を合わせ、遊説などを活発化させます。そして有権者も、次の選挙のために支持を呼び掛けているのだな、と受け止めています。

 あくまで政治活動の体を取っていますが、実際は選挙運動の性質を帯びているから「事実上の選挙戦」と言われているのです。

公職選挙法はザル法の代表格

 上記の解説をかいつまんで質問者に返したところ、以下のようなお返事をいただきました。

 「納得がいかない。解散した後でも、公示されていないのなら選挙運動と取られる行為は自粛するべきでは。言葉は悪いが、屁理屈のようで納得がいかない」

 手厳しい意見ではありますが、質問者がそう思うのももっともだと思います。

 そもそも選挙について定めた法律である公職選挙法は、解釈によっては多くの抜け穴があり、ザル法の代表格とされています。

 例えば、選挙運動においては、1軒1軒訪ねて投票を依頼する「戸別訪問」は禁止されています。しかし、路地を歩いていて偶然出会った人たちに支持を依頼するのは戸別訪問にはあたらず、セーフとされています。じゃあ、どこで線引きするのかという話になると思いますが、ケースバイケースで判断するとされています。

 法の狭間のあいまいな空間の中で、日本の政治活動は繰り広げられていると言えます。

新聞記者

Posted by かく企画