「怒ったかな?」と思ったら(後編) ―不機嫌な取材相手への処方箋―

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取材相手が不機嫌で、思うようにインタビューができない

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病気と同じで、原因と症状に応じた処置が不可欠。相手が怒った理由や、怒り具合によって、対応策を取りましょう

 こんにちは、社長の藤田です。2002年から14年間、地方新聞社で記者職に従事。2021年からフリーライターとして活動しており、通算16年、取材で生計を立てています。

 インタビューの最中、取材対象者が何だか不機嫌-。このような事態に遭遇したことはないでしょうか。相手の気持ちに寄り添うことも大切ですが、それ以上に取材をして原稿を書くというミッションを果たさなくてはなりません。

 今回は、取材中に不機嫌になった、あるいは怒ってしまった場合の対応策についての後編。前編、中編同様、原因と症状別に私なりの対応策を紹介したいと思います。

 前編、中編はこちら

 また、警察取材での夜討ち・朝駆けなど、よりプロフェッショナルな取材方法については、こちらをご覧ください。

取材相手が不機嫌になる原因

  取材相手が不機嫌になる原因と症状についてのおさらいです。

原因

取材先が不機嫌になる原因
①取材が苦手
②取材前に嫌なことがあった
③取材中失礼なことを言った
④聞いちゃいけない部分に触れた
⑤難しい質問をした
⑥同じ質問をした
 ↑ここまで終了
⑦取材が長引いている
⑧フィーリングが合わない
⑨見下されている
⑩原因不明

症状

不機嫌な取材先に見られる主な症状
①顔色が変わる
②言葉がつっけんどんになる
③口数が少なくなる・話さない
④怒る
⑤退席する・取材に出てこない

不機嫌な取材相手に対する処方箋

 怒りや不機嫌の原因別・症状に応じた対応策について、前回に続いて説明していきます。

取材が長引いている

 取材が長引いて機嫌を損ねるのには、さらに次の2パターンに分けられます。

(イ)予定時間をオーバーしている

(ロ)予定時間をオーバーしていないが、相手が「取材が長い」と感じている

 (イ)が頻繁に発生する場合、効率的な質問、タイムキーピング、話の脱線の修正など、そもそもの取材方法を見直す必要があります。予定時間をオーバーしたら誠心誠意謝るしかありません。

 (ロ)の場合、そもそも時間がかかっているだけでなく、細かい質問や退屈な取材で「長いと思わせている」というケースがままあります。

実例4

 ある取材対象者の話。最初は機嫌良く話していたが、取材が進むごとに返答がつっけんどんになっていった。1時間の取材予定時間よりも10分早く、50分で終了。取材の最後、不機嫌な相手から以下のように言われた。

 「藤田さん、ライターというのは、そんな細かいところまで質問をしてくるのか」

 これに対し私は「他のライターさんはどうか知りませんが、私はいつもこんな感じです。なるべく丁寧な取材をするよう心掛けています」と回答した。

 取材終了後、相手に送った案内メールを見返したところ、いつも書いている予定所要時間がこの相手に限って抜けていた。私のミスであった。

 相手も忙しい中取材に対応してくれていますので、予定所要時間を事前に伝えておくことは欠かせません。どれくらいかかるか見当が付かない場合は「1~2時間」などと幅を持たせても差し支えないでしょう。

 また、実例のように相手が不機嫌になっているのが分かる場合、ホームページや資料で分かる部分を大胆に端折るのも一つの方法。「これまでの歩みについては資料を元にまとめさせていただきます」「お客さまの声についてはホームページの内容から紹介させていただきます」などと断りましょう。ただし、記事自体は血の通わないものになりがちです。

フィーリングが合わない

 人間同士のコミュニケーションである以上、どうしてもフィーリングの合わない人が出てきます。このケースでは、相手が不機嫌になるだけでなく、こちらも不機嫌になることがままあります。

 別の項目でも述べましたが、主人公はあくまで取材対象者。ライターやインタビュアーが折れて、相手に合わせるのが基本です。

 特にインタビュー記事は、相手の思想良心に共感しないと思いのこもった記事が書けません(不祥事などの取材は別です)。自分を洗脳するくらい、相手のことを好きになる必要があります。

見下されている

 不機嫌とはちょっと異なりますが。触れたいと思います。

 有名ライターを除くほとんどのフリーライターは、社会的立場もなく、仕事をしているかどうかも分からないようなイメージを抱かれがちです。ライターに限った話ではないですが、見下されることがままあります。

 取材で相手が見下すような態度を取ってきても、記事を納品というミッションを果たすためには、取材を完遂しなければいけません。平常心を保ち、ライターとしてのプロフェッショナリズムを忘れずに取材に集中するしかありません。

 フリーライターの仕事は、取材対象者以外に仕事を依頼してくれるクライアントという人が存在します。ほとんどの場合、取材対象者はライターの顧客ではなく、クライアントの顧客です。その点をわきまえる必要はあるのかなと思います。

 ただ個人的意見ですが、人格にかかわるようなことを言われた場合は、その限りではないと思います

原因不明

 不機嫌の原因なのかを一刻も早く突きつめ、除去できる場合は取り除く必要があります。

 ただ、この場合には定石はありません。「ひょっとして何か失礼なことをいたしましたでしょうか」と聞いたところで、怒りを増幅させてしまう場合もあれば、原因が分かり謝ることで事なきを得ることもあります。

まとめ

 3回にわたりまして、取材中に相手が不機嫌になった際の対処法を原因・症状別にまとめました。

不機嫌な取材相手への処方箋
①取材が苦手→を和ますのが基本。取材を打ち切る荒療治も
②取材前に嫌なことがあった→相手の空気にのまれないこと
③取材中失礼なことを言った→謝罪が定石。軽症な場合はスルーも
④聞いちゃいけない部分に触れた→相手への忖度は基本不要
⑤難しい質問をした→知をひけらかさず、平易な言葉で
⑥同じ質問をした→「確認ですが」を一言添える
⑦取材が長引いている→予定所要時間の事前周知は必須。取材を大胆に端折ることも
⑧フィーリングが合わない→自分を洗脳して、相手に良い印象を持つ
⑨見下されている→平常心を保って粛々と取材するのが基本
⑩原因不明→一刻も早く原因を突き止めよう

 状況に応じて柔軟に対応し、取材を完遂することが重要です。プロのライターとしての倫理と安全を確保しながら、品質の高い記事を執筆し続けることをお互い心掛けていきましょう。