頼もしく 楽しい 類語辞典

 ライティングで同じ単語を繰り返し使っていると、文章が冗長になってしまい、読み手の気持ちを削いでしまうことになります。

 言い換えできる表現を探したい―。そんなときに役に立つのが、類語辞典です。

 こんにちは、社長の藤田です。2002年から14年間、とある地方新聞社で記者職に従事。2021年からフリーライターとして活動しています。

 私は記者時代に類語辞典を購入して以来、記事や文章を書く際に活用しています。インターネットで「○○ 類語」などと検索すれば似通った言い回しを調べることができますが、自分の手で辞書を引くほうが、何となくですが脳が活性化して良いものが書ける気がします。

 また類語辞典は、面白い読み物。夜のしじまの中、寝酒を片手にパラパラ眺めていると、「これ、いいな」と思う表現や、面白い言い回しに出会えることがあります。

 言葉を生業にする者にとって、頼もしくもあり、楽しい存在。今回は、ライターの良き相棒となり得る類語辞典の利便性や魅力について紹介したいと思います。

「類語辞典」と「シソーラス」

 類語辞典とは、ある言葉と意味がよく似た言葉、つまり類語を探すための辞典です。

 国語辞典のように五十音順で言葉を並べているものが多いですが、中には五十音は関係なく、単語を意味ごとに分類して配列している辞書もあり、それを特に「シソーラス」と読んで区別することがあります。

 私が持っているのは「講談社類語辞典」(柴田武ほか編)。五十音順でなく「生きる」「考える」「降る」といった似た意味の言葉ごとに掲載しており、どちらかといえばシソーラスと言うことができるでしょう。

 例えば「降る」のところには、「降り注ぐ」「時雨れる」「ぱらつく」「そぼ降る」といった、降雨に関する動詞が並べられています。

 動詞だけでなく「しとしと」「しょぼしょぼ」などの副詞、「雨」「雪」などの関連ワードも見ることができます。

「雨」だけで40個以上の類語

 「」という名詞一つ取っても、40個以上の類語が掲載されており、それぞれニュアンスの違いも解説されているので、使い分けに便利です。

 ほんの一部ですが、抜粋したいと思います。

・雨粒の大きさの違い

 小雨…少し降る雨

 こぬか雨…細かい雨 (用例)こぬか雨降る御堂筋

 霧雨…とても細かい雨

・降り方の違い

 大雨…たくさん降る雨

 風雨…風を伴った強い雨

 篠突く雨…篠竹(細長い竹)を束ねて突き下ろすような激しい雨

・季節、温度による違い

 春雨…春の雨 (用例)春雨じゃ濡れて行こう

 五月雨…梅雨時(陰暦5月)の長雨 ※5月の雨ではない (用例)五月雨をあつめて早し最上川

 氷雨…晩秋から初冬の冷たい雨 ※真冬の雨ではない (用例)飲ませて下さいもう少し

使い方 ー索引で掲載ページを調べるー

 それでは、講談社類語辞典の使い方について説明します。

 辞書には「ガイド」と呼ばれる、五十音順の索引のようなものが付いています。「付いている」といっても、ガイドだけで451ページあり、かなりのボリュームです。

 例えば「考える」という言葉の類語を探したいとします。ガイドの「か」の部から探し出すと、「かんがえる(考える)」があり、赤字で掲載ページが書かれています。

 掲載ページに行くと、「案じる」「考察」「思索」「熟考」といったさまざまな類語が並んでいます。この中からしっくりくる言葉を見つけ出しましょう。

講談社類語辞典で見つけたくだらないこと3選

 仕事で使い、余暇でも眺める講談社類語辞典ですが、ときに面白く、興味深い発見をすることも。今回は、私が見つけたくだらないことを三つ紹介します。

盆と正月が一緒に来たよう

 「喜ぶ」の類語を探していたときのことです。

 辞書を引くと、実にさまざまな単語が出てきました。「歓喜」「感激」「ありがたい」といったスタンダードなものもあれば、「小躍り」「ばら色」「もっけの幸い」といった変化球があり、また「ハッピー」「ラッキー」「Vサイン」といった外国勢までも顔をそろえていました。

 そんな中、一つの単語に目が留まりました。

 <盆と正月が一緒に来たような>

 注釈には「うれしいことが重なったときの気持ちのたとえ」と書かれていました。

 確かに類語ではありますが、それにしてもなぜこのような慣用句をあえて選んだのでしょうか。編集者に意図を聞いてみたいものです。

類語辞典のピンクゾーン

 中学校の図書館に所蔵されていた国語辞典。卑猥な言葉のところに、何者かが鉛筆やマーカーで線を引いていた。思春期の男子にありがちだった風景だと思います。

 その点、講談社類語辞典ですと、わざわざ線を引くような手間は無用です。

 568ページに「女らしい」、569ページに「男らしい」の類語が並んでいます。ここまでは普通なんですが、その後、571ページからは「なまめかしい」「いやしい」の類語に。ここから574ページあたりまで、ピンクな言葉のオンパレードが続いています。

 「なまめかしい」「妖艶な」「官能的な」といった言葉のほか、「エロチック」「ど助平」「エッチ」といった直接的な表現も。名詞のコーナーでは、よい子の皆さんには見せられないようなものが並んでいます。

 余談ですが、エッチという言葉は外来語でなく、「HENTAI」の頭文字を取った日本由来の言葉。女子学生が使っていたものを、作家の舟橋聖一が朝日新聞に連載した小説「白い魔魚」で使ったことで有名になりました。

 つまり、エッチという言葉は朝日新聞が広めたと言うことができます。

最初と最後の見出し語は…

 講談社類語辞典に収録されている見出し語の最初と最後は? 気になって調べてみました。

 最初は「生きる・死ぬ」関係の言葉が並んでおり、見出し語もずばり「生きる」。

 最後にあたる1846ページの最後の見出し語は「全宇宙」。「宇宙の全域」という説明が掲載されています。

 「生きる」に始まり、「全宇宙」で終わる類語辞典。何だか哲学的です。わざとなのでしょうか?

まとめ

 最後ふざけた文章になってしまいましたが、類語辞典を活用すると、表現の幅が広がります。価格は少しお高めですが、手元にあって損はないアイテムです。