記者は傍観者であるべきか

新聞記者

 みなさん、こんにちは。昔、記者をしていた「かく企画」の仮面ライターです。

 今回は、「記者という仕事をしている人は、傍観者に徹するべきか」というテーマで記事を書いてみたいと思います。

豊田商事会長刺殺事件

 今回のテーマを考える時、最初に私の頭に浮かぶのが「豊田商事会長刺殺事件」です。

 1985年のことです。悪徳商法で知られていた会社の会長が、報道陣が集まったマンションで殺された事件です。

 マスコミの人たちは、会長が今日逮捕されると聞きつけ、マンションの部屋の前に集まりました。そこに現れた2人の男が、ドアを叩き続け、サッシを蹴破り、刃物を手にして部屋に侵入。一部始終をテレビが報じる中、室内で会長が刺され、死亡しました。

 このシーンは、映画「コミック雑誌なんかいらない!」(1986年、監督・滝田洋二郎、脚本・内田裕也、高木功)に出てきます。ビートたけしさんが犯人の一人を演じているこの映画を私は中高生の頃、何度も見ました。

 明らかに、今から人が殺されようとしているのに、誰も止めずにいた映像ははっきりと私の記憶に残っています。

目の前で人が沈む その時私は

 思い返してみると、私も同じ様なことをしかけたことがあります。

 記者1年目だった頃、孤島で火災が発生しました。

 孤島の外から消防団の人たちが船に乗って駆けつけました。記者は私ともう1人別のマスコミの人だけ。私はチャーターした船で島を目指しました。

 人的に被害は幸いなかったものの、消火までに丸1日かかりました。私は写真を取り続け、貧弱な通信環境の中で画像を送り続けようと必死でした。

 日差しも強く、足場が悪い島の中を歩き回ってヘトヘトになりました。消火活動をしていた人たちは、私の比にならないほど体力を消耗したはずです。

 帰りは、消防団の人たちと記者たちが一緒にチャーターした船で帰りました。やっと接岸して、消防団長の初老の男性を先頭に、私が続いて下船しようとしました。

 すると男性が足を滑らせて護岸と船の間の海に落ちてしまいました。

 その時、一瞬だけ、「この様子を写真に撮るべきではないのか」という考えが頭をよぎりました。

 たった1、2秒でしたが長く感じました。すると、若手の消防団員たちが両脇から団長を引っ張り上げ、救出しました。

 人が死ぬかもしれない時に、カメラを向けるか考えた私は、まともではありませんでした。

記者の客観的立場とは

 市民団体の取材をしていた日のことです。

 団体のメンバーが集って、今後の活動について話し合うところを私は取材者として聞いていました。場所は公民館のようなところだったと記憶しています。

 最後列に座って、メモを取っていると前から箱が回ってきました。カンパを集める箱でした。別の新聞社に勤める記者は、いくらかは覚えていませんが、お金を入れていました。

 市民団体の活動は理解しているし、一個人としては応援する気持ちがありましたが、お金は入れませんでした。

 この時以外でも、市民団体の取材をしていると、カンパの箱が回ってくることがあり、私は毎回、迷いながらもお金は出しませんでした。

 政治的な強い権力や資金力のある会社に意義を申し立てている人たちなのだから、カンパをしても良いという考え方もあるのかもしれません。でも、私は客観的立場から取材をしている側として、カンパは出来ないと考えました。

 話を豊田商事会長刺殺事件に戻します。

 豊田商事会長が殺されかけていた時に、マスコミの人たちが取った行動は異常です。ただ、私の原理原則を貫くと、刺殺事件に出くわして、カメラを回し続けた人と同じことをしかねません。

 もちろん、市民団体へのカンパと殺人事件を止めることを一緒にするべきではないのかもしれません。でも、共通しているのは、マスコミで働く人たちの立場と習性です。

 政権幹部と飲食をしたマスコミ幹部が批判されている意見を聞いたことがあります。馴れ合いになって報じるべきことを報じなくなるのではという意見です。

 一方のマスコミ側は、「取材対象者に近づかないことには話が聞けない。その場があるなら、行くのは当然だ」という考え方です。

 客観的立場をどう取るかは難しい課題です。

マスコミの人はおかしいのか

 今回のブログを書いて改めて思うことは、マスコミの考え方は世間からズレているということです。それは、仕事上、致し方がないことなのかもしれません。とはいっても、開き直るのもどうかと思います。

 私は記者をしていたので、記者の知人が多くいます。ある時、その人たちと災害現場に取材としてではなくボランティア活動で訪れたことがありました。休暇を使ってのことでした。

 その時、被災した住宅に入って、写真をたくさん撮っている知人たちの姿に違和感がありました。仕事ではないので、その写真は報じる目的ではありませんでした。

 そういう私も、プライベートで同じようなことをしてこなかったと聞かれたら、NOという自信はありません。「平均的より」というのは難しいですが、好奇心が他の人よりも強いという自覚があるからです。

 例えば、近所で火事があったら駆けつけて、出火原因を知るまで返らなかったり、交通事故を見たら車の破損部位を確認したり。

 マスコミで働く人は、どこかが「おかしい」のかもしれません。

新聞記者

Posted by かく企画