「訴状が届いていないのでコメントできない」というコメントは本当に必要?
訴状が届いていないのでコメントできない
訴訟についてのニュースで、このようなフレーズを見聞きしたことはありませんでしょうか。
あまりにも紋切り型の、さらっとした、中身のないコメント。こんなコメントをいちいち新聞に載せたり、テレビのニュースで報じたりする必要があるのか―。このように思う人もいらしゃるかと思います。
こんにちは、社長の藤田です。2021年に19年3カ月勤めた新聞社を退職し、フリーランスのライターとして活動しています。
今回は、この「訴状が届いていないのでコメントできない」というフレーズについて考えてみたいと思います。
訴訟の種類
「訴状が届いていないのでコメントできない」に触れる前に、訴訟について簡単に触れたいと思います。
訴訟は、おおまかに以下の4種類に分けられます。
①民事訴訟
個人や会社同士が争いを起こしたときに、裁判所で解決する手続きです。例えば、お金の貸し借りに関するトラブルや、契約の不履行などが該当します。
②刑事訴訟
犯罪の疑いが掛けられている被告人に対し、裁判所が処罰を決める手続きです。例えば、殺人や窃盗などが該当します。警察が犯人を捕まえ、裁判所で裁かれます。
③行政訴訟
行政訴訟とは、国や自治体が出した決定や処分に不服がある場合、取り消しや変更を求める手続きです。国や自治体などの行政機関を相手に裁判を行います。
④憲法訴訟
政府が定めた法律や政府の行為について、裁判所で判断を求める手続きです。憲法に照らし合わせて正しい(合憲)か、間違っている(違憲)かが争点となります。
「訴状が届いていないのでコメントできない」は、個人や会社同士が争う民事訴訟において、訴えられた側(被告側)」がよく用いるコメントです。
「コメントできない」というコメントが必要な理由
この中身のないコメント。日々の取材で忙しい記者が、わざわざ取材をしてまで掲載する必要があるのでしょうか。
結論から言うと、「必要」だと考えます。
民事訴訟は、金銭や契約不履行など、何らかのトラブルによって一方が他方を訴えるものです。訴えの内容が記されている訴状は、訴えた側(原告側)の言い分であり、被告側の言い分は載せられていません。
訴状の内容だけをニュースにしたのでは、原告側のみの主張を取り上げることとなり、被告側にとっては不公平だと言えます。そのため、被告側にも取材し、その言い分の一端だけでも紹介するべきだと考えます。
刑事裁判も
ちなみに刑事裁判においても、逮捕された容疑者についての言い分が報道されます。
容疑者は、有罪判決が確定するまでは、何人も犯罪者として取り扱われないという「無罪推定の原則」があります。そのため、逮捕容疑を認めているか否か(認否)について報じるようになっています。
もっとも、最近では警察が「捜査に支障がある」として、容疑者の認否を明らかにしないケースも散見されます。
被告側は本当に訴状を見ていないのか?
さて、「訴状が届いていないのでコメントできない」とコメントする被告側の元は、本当に訴状が届いていないのでしょうか。本当は目にしているが、取材がうっとうしいので適当に回答したのではないか、と思う人もいるかもしれません。
これも結論から言うと「本当に届いていない」ことがほとんだと考えられます。
裁判を起こすこと(提訴)を決めた原告側は、まず裁判所に対して訴状を提出します。訴状は被告側へ送られますが、それまでに裁判所で中身の審査などの手続きがあり、実際に被告側の手に届くのは数週間後です。
ですので、提訴してからすぐにニュースとなった場合は、本当に訴状が届いていない場合がほとんどです。
しかしごくまれに、原告、被告双方が争っていることを公にせず、提訴後しばらくしてからニュースとして明るみに出る場合があります。
この場合は、被告側がすでに訴状を見ている可能性が高く、「訴状が届いていいないのでコメントできない」のコメントは、嘘であると疑うことができます。
まとめ
今回は「訴状が届いていないのでコメントできない」について、つれづれに書いていきました。まとめです。
・「訴状が届いていないのでコメントできない」というコメントは、民事訴訟の被告側から出される
・「訴状が届いていないのでコメントできない」というコメントは、被告側の言い分を紹介するために報道には欠かせない
・「訴状が届いていないのでコメントできない」というコメントを出す際、本当に訴状が届いていない場合がほとんどと思われる
最高裁判所が公表する「裁判所データブック」によると、2021年の民事・行政訴訟の新規受理件数はなんと137万件。
きょうもどこかで「訴状が届いていないのでコメントできない」とコメントされていることでしょう。
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