全治2週間のケガは大ケガだった
交通事故でケガをしたことがあるという読者はいらっしゃいますか? 大きな交通事故になると、警察がマスコミに発表をします。
私は、元新聞記者で当時は、警察が言うとおりにケガの度合いを書いていました。ある時、実際に事故にあった人に取材をする機会があり、発表と事実に乖離があることを知りました。
「かく企画」社員の仮面ライターが、今回は警察発表と事実が違った経験を紹介します。
国道からトレーラーが落下 原因はシカ
このブログでは、弊社社長が、重体や重傷、軽傷などについて、新聞で使われる言葉の違いについて書きました。
もう20年くらい前の話です。山の間を縫うように走る国道から、大型トレーラーが落ちるという事故が発生しました。
現場に駆けつけると、トレーラーの先頭部分が国道下に落ち、後輪側が国道に引っかかっている状態でした。幸いなことに、トレーラーの運転手に大けががない様子。運転手は警察官に事情を説明していました。
運転手の男性や現場にいる人たちに事故当時の状況を聞きました。
1匹のシカが飛び出してきて、それを避けようとハンドルを切った軽乗用車が対向車線にはみ出したそうです。そして、その軽自動車とぶつからないように、これまたハンドルを切った対向車線のトレーラーが、国道下に落ちたというのです。
軽自動車に乗っていたのは女性。ケガをして、すでに救急搬送されていました。
そして、近くには、ブルブルと震える1匹のシカがいました。
デスクに連絡 病院へ
デスクにひとまずの報告をしました。
「おお、それはすごい話やな。運転手の話が聞けたのは良かった。後、シカにも聞いてくれ。お前が飛び出したのかって。 冗談や。シカとトレーラーの写真は送ってな」
次のデスクの指示は、驚きました。
「それから、軽自動車の人の入院先に行ってきてくれ。本当に、シカを避けようとしたのか聞いてきてくれんか。シカとは結局ぶつかったんかも聞けたら頼む」
警察発表では、軽自動車の女性は、全治2週間のケガ。広報対応の副署長によると、軽傷とのことでした。
病院に到着。受付でケガをした女性の名前を伝えると、上階にいることを教えられ、ナースステーションに行くようにと言われました。
デスクからは、身元を聞かれたら名刺を出すように、と言われていましたが、身元は聞かれませんでした。
ナースステーションに行くと、病室を教えてもらえました。
部屋に入ると、ベッドを仕切ったカーテンのそばに女性が座っていました。話しかけてみると、事故にあった人の母親でした。
取材のことを説明すると、「話を聞いてください」と母親は言いました。
カーテンを開けてもらい、ベッド脇に座ると、女性が寝ていました。
全治2週間と聞いていましたが、顔は酷くはれていました。フロントガラスが割れて、破片が刺さったとのことでした。包帯で顔がほとんど覆われていました。
「事故の取材をしています。お話は出来ますか?」
女性は口が満足に開かない様子で、言葉になりません。
「苦しいところすみませんが、私の言うことが事実だったら、首を縦に振れますか? 違ったら、横に動かしてください」
女性は首を縦に振りました。
「シカが飛び出してきて、ハンドルを切ったという話を聞きました。運転中、シカが自分の車の前に飛び出してきましたか」
首を縦にふる女性。
「その後、対向車線にはみ出してしまい、反対からトレーラーが来ましたか?」
これまた縦。
「シカとはぶつかりましたか?」
これも事実でした。
付き添っていた母親に感謝されました。
娘が一方的に事故を起こしたと報道されると心配だったそうです。私は、ケガをしているのに取材をするという罪悪感が強く、感謝されたことに戸惑った記憶があります。
まとめ
警察が全治2週間と発表した女性のケガ。警察側は病院に聞き取りをして、そのままを伝えたのだとは思います。
ただ、実際に女性にあってみると、あのケガが2週間で治るとは思えませんでした。
後日談ですが、取材を終え、原稿を送り、記事が掲載されました。
トレーラーが逆さまになり、国道に引っかかった細長い縦写真の横に、シカの写真が小さく掲載されました。
「事故の原因となったとみられるシカ」という写真説明とともに。
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