採用の最終試験が監禁事件に

 みなさん、こんにちは。このブログの読者には、転職を考えているという方もいらっしゃるかと思います。今回は、転職を舞台にしたミステリー小説の紹介です。

 採用する側とされる側の思い、という視点がおもしろい作品です。ご自身が面接を受ける時に、この小説を思い出していただければ、リラックスできるのではないかと思い、ブログを書きます。

著者の紹介 作品のあらすじ

 著者のピエール・ルメートルさんは、1951年パリ生まれ。私は、3部作の「悲しみのイレーヌ」を読んでファンになりました。イギリス推理作家協会賞を受賞した、第2作の「その女アレックス」、第3作の「傷だらけのカミーユ」もすばらしい作品です。

 これら3部作について、いつか紹介したいと想いますが、今回は「監禁面接」(文藝春秋)という作品の話になります。訳は橘明美さんです。

 「かく企画」のブログで紹介している、BookTuberの「あべしぃ」さんのように、ネタバレを避けながら本の紹介をするのが苦手なので、文庫本の後ろに書かれている解説をご紹介します。

 ーーリストラにあい失業4年目のアラン、57歳。再就職も出来ずアルバイトで糊口を凌いでいたところ、一流企業の最終試験に残ったという朗報が届く。しかしそれは「就職先企業の重役会議を襲撃し、重役たちを監禁、尋問せよ」なるものだったーー。予測不能、驚天動地。知的企みに満ちたノンストップ・サスペンス!―

簡単に乗り越えられた推測

 監禁面接が話に出てきたところで、「本当のテロリストにやられてしまうのだろうなぁ」と、私は推測しました。それからもストーリーが続き、推測が当たるかと思ったあたりで、あっさりと自分の想像力を乗り越えられてしまいました。

 この作品は3部構成で、視点が変わるところがおもしろさを倍増させています。私の推察ですが、主人公のアラン・デランブルの視点だけだと読者がだれてしまうかもしれません。

 3部構成によって、主人公の心境がよりおもしろく伝わっています。第3部は、ストーリーがややわかりにくかったのですが、それでもあっという間に読んでしまいました。

魅力的な脇役 惹きつけられる理由は?

 この作品に私が惹きつけられた要素の一つとして、1人の脇役の存在があります。その人物は、シャルルといいます。

 シャルルは、主人公のアランの同僚で、非正規労働者。車上で生活しています。控えめに言っても、まともな人間ではありません。

 作中では、主人公のアランの人物描写の方がよく描かれているのに、シャルルの方が好きになりました。自分がアランよりもシャルルに感情移入したのはどうしてなのか、いまだにわかりません。

 ルメートルさんの作品に限らず、脇役が魅力的なストーリーは、作品自体の魅力もアップするように思います。

1位が選ばれなかった面接

 この話を読み終わってしばらくして、自分の体験を思い出しました。

 それは新聞記者になる前の仕事でのこと。企画に採用するタレントのオーディションでした。スポンサー企業から2名、ディレクター1名、プロデューサー1名が参加。私はアシスタントして出席しました。

 オーディションの前に、ディレクターの方が私に言いました。

 「オーディションが終わった時点で1位の人は、最終的に選ばれないよ」

 どういうことか私にはわかりませんでした。

 オーディションが終わりました。選考者たちは、各項目別に点数をつけていたので、私が集計して発表しました。4人とも同じ人を1位にしていました。それなのに、最終的には、2位の人が選ばれました。

 オーディション後に、私はディレクターに質問しました。どうして、1位の人にならないのか。

 その時のオーディションは、男性4人が選考者で、1人の女性を選ぶというものでした。ディレクターが言うには、男性はついつい自分の好みの女性を選んでしまう。本来は、そのままでいいのに、恥ずかしいからなのか、オーディションに慣れていない人は、後から判断を修正する傾向にある。

 言われてみれば、私も集計上1位になった女性がタイプというか、輝いて見えました。「どうしてその人を選んだの?」と、上司や担当役員に質問された時に、「タイプでした」とは言いにくいのかもしれません。それで、あれこれともっともらしい理由を探すのかもしれません。

 私が体験したオーディションでは、集計結果が発表された後、長い議論が続きました。ディレクターとプロデューサーは判断を変更しませんでしたが、スポンサーの意見が尊重されて、結果が変わりました。面接というのは、よくわからない理由で結果が出るものだと実感した体験でした。

 話をもとに戻します。

 小説「監禁面接」を読まれてから面接を受ける方は、大丈夫だとは思いますが、小説に出てくるようなことをなさらないで下さい。あくまでフィクションですので、素敵な脇役のシャルルは来てくれません。

本の紹介

Posted by かく企画