「魔女の宅急便」に学ぶ フリーランスの心構え(前編) ー準備に必要なものー

2023年3月30日

 こんにちは、社長の藤田です。元新聞社勤務で、現在はフリーランスのライターをしています。

 フリーランスなど、個人で商売をしている人を主人公にした小説、漫画、テレビドラマ、映画は多くあります。例えば、内田康夫さんの小説『浅見光彦シリーズ』の浅見光彦(フリールポライター)、古いところでは、テレビドラマ『天国の父ちゃんこんにちは』で森光子さんが演じた「パンツ屋」(下着の行商)など。

 また最近では、漫画からドラマ化された『孤独のグルメ』が人気です。松重豊さん演じる輸入雑貨商の井之頭五郎が、ただただ飯を食うという話。私も好きで、昔から見ていますが、見始めた当初はまさか自分が個人事業主になるとは思ってもいませんでした。

 そんなフリーランスを主人公とした作品の白眉と言えるのが、スタジオジブリのアニメ映画「魔女の宅急便」。魔女の血を引く少女・キキが修行のために生まれ故郷を離れ、知らない街で宅配便をして自活する話です。

 本来は少女の成長過程を描いたハートフルな物語ですが、フリーランスとして事業をするのに見習うべきシーン、考えさせられる場面が随所にあります。

 「フリーランス」という言葉がまだ市民権を得ていない1989年に公開の映画。今回は、映画の中からいくつかのシーンをピックアップして、個人で事業をする際の心構えについて考えます。長くなりますので、前・中・後編3本に分けてお伝えします。

映画のあらすじ

 映画を見たことがない人のために、簡単なあらすじを紹介します。

 主人公である13歳の魔女・キキは、古くからのしきたりに従い、相棒の黒ネコ・ジジとともに生まれ故郷を離れて修行の旅に出ます。とある海辺の街を訪れ、若い夫婦が営むパン店に居候をしながら、ほうきに乗って空を飛び荷物を届ける「魔女の宅急便」を開業します。

 森の中で暮らす絵描きの少女、心優しい老婦人らと交流しながら、宅配の仕事をこなして少しずつ成長していくキキ。空に憧れ、人力飛行機づくりをしている少年・トンボにはなかなか素直になることができませんが徐々に親しくなっていきます。

 しかしある日、キキは突然、意思疎通できていた黒ネコのジジと会話ができなくなります。さらに空も飛べなくなるなど、魔法のスランプに陥ってしまうことに。そんな中、老夫婦の家で見たテレビニュースに映し出されたのは、暴走した飛行船に取り残されて宙づりになったトンボの姿でした…。

Scene1 相棒の黒ネコ・ジジ

 ほうきにまたがり旅に出るキキ。そのほうきの柄の先には、彼女の相棒である黒ネコのジジがちょこんと乗っています。

 物語中、主人公と終始行動を共にするジジ。キキにとっては、唯一無二と言える、かけがえの無い相談相手です。

 ジジは生意気で毒舌家ですが、キキの心の支えとなっていることに間違いはありません。不測の事態に陥ったときは、いつもジジに相談をしています。

 ともすれば孤独になりがちなフリーランス。それもそれで仕事の魅力かもしれませんが、仕事をする上ではやはり相談相手になる人物が欠かせません。

 心のよりどころは家族や友人、恋人に限りません。愛犬、愛猫などのペットでもOKです。

心構え① 相談できる人や心のよりどころを最低1人(または1匹)持とう

Scene2 キキが車にはねられかける

 生まれ故郷を離れ、海辺の街にやってきたキキ。珍しい魔女がほうきに乗って飛ぶ姿に、街の人々は驚きの目で見つめます。

 得意になったキキはアクロバティックに飛びますが、彼女の生まれ故郷にはない“文明の利器”である自動車にはねられかけます。幸い事なきを得ましたが、警察に職務質問されるなど、散々な目に遭いました。

 フリーランスにとって、他の人にない専門知識や技術を持ち合わせるというのはこの上ない強み。しかし、それを必要以上に振りかざしていては、思わぬ墓穴を掘ることがあります。

 特にフリーランスになりたての頃は、社会人1年目をもう1回やるくらいの謙虚な心構えが必要です。

心構え② スキルがあっても謙虚に。調子に乗らず、地に足を付けよう

Scene3 グーチョキパン店に居候する

 知り合いやつてがなく、街の人からも冷たくあしらわれるキキ。あてもなく街をさまよう中、「グーチョキパン店」というパン店に差し掛かります。ここでキキはパン店の客の忘れ物を届けたことで、この店の女将・オソノと知り合いになります。

 親切でしっかり者のオソノは、お礼にキキにコーヒーをごちそう。優しさにほだされたキキは思わずこうつぶやきます。「この町の方は、魔女がお好きじゃないみたいですね」

 これに対し、オソノは答えます。「大きな街だからね、いろんな人がいるさ。でも私は、あんたが気に入ったよ」

 こうしてキキは、パン店の電話番と店番を行う代わりに、「部屋代と電話代無料、しかも朝食付き」という破格の条件でパン店2階の空き部屋に居候することが許されます。

 この空き部屋を拠点に魔女の宅急便を開業。個人事業主・キキの誕生です。

 さて、このシーンでは、キキの開業費とランニングコストにスポットを当てたいと思います。

・店舗の家賃…無料
・電話代(通信費)…無料
・貨物車両…自前のほうきを利用
・人件費…なし
・店舗看板…パン店より寄贈

 車両費など、開業に伴う費用がほとんどかかっておらず、ランニングコストの代表格である店舗家賃や通信費は無料。人件費も黒ネコをタダ働きさせるのでかかりません。さらに、看板をオソノの夫であるパン店の主人につくってもらうなど、金をかけずに広告宣伝を行っています。

 フィクションの中とはいえ、これってすごいことだと思いませんか? フリーランスを始める人、起業する人は、キキの開業費、固定費を見本とするべきです。

心構え③ 開業費、固定費はなるべく低く抑えよう

前編のまとめ

 今回、スタジオジブリのアニメ映画「魔女の宅急便」から得たフリーランスの心構えは以下の三つです。

心構え① 相談できる人や心のよりどころを最低1人(または1匹)持とう

心構え② スキルがあっても謙虚に。調子に乗らず、地に足を付けよう

心構え③ 開業費、固定費はなるべく低く抑えよう

 次回の中編では、いよいよキキが魔女の宅急便として活動を始めます。お客とのやり取りから、クライアントに対する心構えを中心に考察していきます。