小説をどうして書くのかということについて

2023年3月30日

 「かく企画」社員の仮面ライターです。私は小説を書いています。これまでに出版された作品はありませんが、ほぼ毎日、小説を書くか、書くことについて考えています。今回は、「小説をどうして書くのか」ということについて考えてみたいと思います。

村上春樹さんの本を読み 取材に失敗

 私は、高校・大学時代、かなり熱心に村上春樹さんの小説を読んでいました。また、エッセー集も、とても好きでした。世界的に有名になる前の村上さんの書いた作品を読むのが、何よりも楽しい時間でした。高校の途中までは、小説をほとんど読まなかったので、村上さんのおかげで小説好きになったともいえます。

 そんな高校や大学での日々は過ぎ去り、小説の趣味は変わっていきました。40代になったある日、書店で村上さんの本を目にしました。それは、「職業としての小説家」(新潮文庫)でした。迷わず買いました。

 とても寒い冬の駅で取材対象の人を待っている間に、かじかむ手で頁をめくりました。この本は、小説を書く人たちだけに向けた作品ではないと私は思っています。この本を読んでから、村上作品を読み直すと、これまでとは違った受け止めや楽しみが得られるはずです。

 私は、この本を読むことにあまりにも夢中になってしまい、取材対象者を見逃してしまったくらいです。もちろん、取材の失敗は、村上春樹さんのせいではありません。

構成なしで書くということ

 上記で紹介した村上春樹さんの「職業としての小説家」以外にも、小説の書き方をテーマにした本を読みました。ただ、技法に引きずられてしまうのではないかと思い込んで、これまで多くは手に取りませんでした。

 一昨年と昨年、YouTube動画やビジネス本などで、度々目にした書籍がありました。米国の小説家・スティーブン・キングさんの「書くことについて」(小学館文庫)です。

 買って読むか迷っていたのですが、好きなユーチューバーで精神科医の樺沢紫苑さんが、「アウトプット大全」(サンクチュアリ出版)という自身の著書で、キングさんの著作について触れていました。「これは買って読むしかない!」と、購入しました。

 キングさんは、自分のこれまでの経験を色鮮やかに織り込みながら、「書くことについて」を熱く語っています。私が驚いたのは、「プロットより状況設定が重要だ」と言っている点です。それは、ストーリー構成が重要なミステリーのようなジャンルでもです。

 私は、新聞の原稿を書いていた時に、構成を考えてから書いていました。新聞の一つの記事に比べればはるかに長い小説には、当然構成が必要だと思っていましたし、一作目は構成を幾度も練り直しました。

 キングさんが述べている状況設定に話を戻します。興味を惹かれる状況は、「もし~としたら?」という仮定法で言い表すことが出来ると主張します。私の理解では、この「もし~としたら?」という仮定法で表現する内容は、小説の要旨ではありません。

 「興味を惹かれる」というのは、「おおっ、読みたい」となるような状況です。その上で、個性や陰影を持たない人物が小説に登場し、叙述に取りかかる、と言います。また、小説の三要素についても説明があります。

  • 叙述:ストーリーをA地点→B地点→C地点…………Z地点まで運ぶ
  • 描写:読者にリアリティを感じさせる
  • 会話:登場人物に生命を吹き込む

 叙述について言及していることは、ハッとさせられます。

「人物を自分の思い通りに操ったことは一度もない」「結末にこだわる必要はない」

 結末にこだわらなくて書けるのか、と疑問を抱きながら私はキングさんの本を読みました。描写は、今回、省略しますが、会話についても考えさせられました。

「作中人物の口から出る言葉に誠実であれ」

 小説の登場人物の口から当然出てくる言葉を、作者がコントロールしてはいけないのだと思います。自分の書いたものを推敲すると、違和感がある言葉がありました。それは、私がコントロールしてしまっていたのが原因ではないかと気がつきました。

人生を豊かにする だから小説を書く

 このキングさんの本は、ユーモアにあふれ、時々笑ってしまうところがあるくらい楽しく書かれています。それ以上に、彼の小説への熱い思いが随所にちりばめられています。至る所に線を引いたり、メモを取ったりしたくなる文章があるのですが、最も大切だと受け止めたのは、どうして書くのかについて述べた次の言葉です。

 読む者の人生を豊かにし、同時に書く者の人生も豊かにするためだ (以上、引用)

 小説を書いている人たちは、それぞれに理由があるのだと思います。上記の言葉の前にキングさんが言っています。

 ものを書くのは、金を稼ぐためでも、有名になるためでも、もてるためでも、セックスの相手を見つけるためでも、友人をつくるためでもない (以上、引用)

 この本を読むと、キングさんの生の声を聞いたかのような感覚に包まれます。自分に出来ることなのか? たぶん出来る。出来るはず。いや、そうなるように日々、小説を書きたい。

 もし、お時間があれば、キングさんと村上春樹さんの本を手にとってみてください。

小説執筆

Posted by かく企画