「ライターの仕事を辞めどきか」と思っている理由 ーフリーライターの定年(前編)ー

2023年4月2日

 こんにちは、「かく企画」社長の藤田です。

 突然ですが、2021年より始めたフリーライターの仕事を、そろそろ辞めなければいけないと思っています。

 といっても、もう少し先の話です。

 今のように企業などに赴いて取材し、執筆するという仕事ができるのは、60歳くらいまで。長くても65歳くらいまでと考えています。

 ずいぶん先のようですが、この記事を書いている時点で私は44歳。60歳まで15年と少ししかなく、遠いようで近い未来です。「そろそろ辞めなければ…」という言葉も、あながちウソではありません。

 なぜ、そう長くこの仕事はできないと考えているのか。その理由について書いていきます。

 前後編の2本立てで、本稿では年齢に限界があると思わせた二つの出来事を紹介。後編では私の短すぎたライターとしての全盛期を自画自賛し、筆力と体力の低下に悩みながら仕事をする現在を比較してみたいと思います。

「フリーライターに定年なし」は幻想

 フリーランスや自営業のメリットとしてよく挙げられるメリットに「定年がなく、長く働くことができる」というものがあります。

 確かに熟練の技術を要する職人や工芸品の作家、エンジニアなどは当てはまると思います。私は新聞記者時代、焼き物の産地に赴任していましたが、味わいのある器を作り出す人間国宝や伝統工芸士ら、ベテラン作家さんの匠の技は、ため息が出るほどすばらしいものでした。

 しかし、ことフリーライターに関しては、定年がないというのは「幻想に過ぎない」と考えています。

 理由は二つ。一つ目は筆力が落ちるから。二つ目は体力が落ちるからです。

 筆力については、「文豪=歳を取っている」というイメージから、意外と思われることが多いかも知れません。ただ、私は加齢によって文章力は落ちると考えています。

 二つ目はある意味自然の摂理ですね。

 では、フリーライターはいつまでもできないと私に思わせたエピソードについて紹介していきます。

ある高齢女性のエッセーを目にして

 一つ目は、新聞記者時代のエピソードです。記者時代、読者が新聞に輪番で文章を書いていくリレーエッセーのコーナーを掲載している時期がありました。執筆者から文章をもらい、言葉や言い回しを微修正してタイピングする仕事です。

 執筆者の一人に、ある高齢の女性がいました。子どものこと、病気で先立たれた夫のこと、自宅近くの豊かな自然などを情感たっぷりに紹介する人で、当初は、味わいのある文章を読むことを楽しみにしていました。

 しかし、彼女の文章は次第に乱れ始めます。誤字、脱字が目立ったり、同じ言い回しが何回も現れたりといったことが目立ち始めました。

 文章の意味が通じないところは本人の了解をもらって修正するのですが、元の原稿が悪ければそれなりにしか直りません。「あの人の文章は最近おかしい」と指摘し、メンバーから外すよう忠告してくる別の執筆者もいました。

 ほどなく担当を離れたので、その後どうなったかは分かりません。「歳をとれば筆力が落ちるのか…」と思った最初の出来事でした。

石原慎太郎氏の小説を読んで

 二つ目のエピソードは、小説の読者として。

 石原慎太郎氏の小説を読んだときです。実名で挙げるのもどうか迷ったのですが、有名な方なので実名とさせていただきました。

 石原氏の晩年の小説に「天才」という小説があります。「今太閤」と称された田中角栄元首相の生涯を書いた作品です。

 石原氏は若手政治家の頃、田中首相と同じ自由民主党の所属でしたが、「青嵐会」という派閥を率いていて、田中首相の金権政治を鋭く批判する立場でした。そんな経緯もあり出版当時は注目を集めていて、私も興味があって読んでみようと本を購入しました。

 物語の素材である田中角栄の人生そのものが波乱に富んでいるだけに、話としては面白かったです。しかし、文章はお世辞にも上手とは言えないと思いました。

 政界入りする前は「太陽の季節」で直木賞を受賞し、東京都知事就任後も新聞に寄稿するなど、執筆活動が旺盛な石原氏でしたが、少しがっかりしたのを覚えています。

 余談ですが、私は学生時代、某新聞社の採用試験で出た作文で、石原氏のことを書いた記憶があります。ここでは触れませんが、気が向けばそのことについても書きたいと思います。

前半まとめ ー「書くことは最大の道楽」ー

 以上、私に「ライターには定年がある」と思わせた二つの出来事を挙げました。

 とはいっても、高齢になってもなお、素晴らしい文章を紡ぐ人は大勢いらっしゃいます。

 例えば、私の好きな作家の一人である浅田次郎さんは、この文章を書いている現在、71歳。しかし「鉄道員」で直木賞を受賞した当時と変わらず、今も作品を愛読させていただいています。

 浅田さんが記した言葉に、次のような言葉があります。

 「書くことは最大の道楽」

 私自身、この道楽をいつまで続けられるか分かりませんが、最低でもあと15年は頑張っていきたいと思います。

 後半へ続く。