事件報道で見かける「自称○○」 自称とはどういうときに付けるのか?

新聞記者

ニュースでたまに「自称大学生」とか「自称会社社長」って言うけど、どうして?

 新聞やテレビニュースでの事件報道の際、逮捕された容疑者を「自称会社員」「自称大学生」などのように、職業や肩書きの前に「自称」と付けて報道することがあります。

22日午後、東京高等裁判所に包丁を所持した自称・中央大学の学生の男が現れ、警視庁が現行犯逮捕しました。

2022年12月22日、TBS NEWS DIG

 この「自称」。どのようなときに付いているのでしょうか? 事件担当の新聞記者として警察取材の経験があり、現在は「自称フリーライター」の藤田が説明いたします。

肩書きの裏取りができないときに「自称」

結論から言うと、容疑者(警察用語では「被疑者」と言いますが、ここでは一般的な容疑者に統一します)の肩書きについて、警察が裏取りできなかった場合に「自称」を使います。

 警察は、容疑者を捕まえると、警察署に連行して取り調べを行います。そこで、住所、肩書き、氏名、年齢などについて、運転免許証やマイナンバーカードをチェックしたり、勤務先や通っている学校などに問い合わせたりして確認します。

 しかし、容疑者が身分証明書を持っていなかったり、会社と連絡がつかなかったりして、これらについてすぐに裏が取れない場合もあります。警察が容疑者を逮捕したことを報道各社に発表した時点で、職業や肩書きの実態がつかめていない場合「自称」を付けるのです。

 ちなみに逮捕の発表は、警視庁と各道府県の警察本部にある記者クラブに対し、プレスリリース(警察では広報文と呼ぶことが多い)を出して行うことが多いです。

「自称」が付くことが多い職業、肩書き

 「自称」の例を挙げると、自称自営業、自称大工、自称飲食店経営、自称作家、自称俳優、自称ユーチューバーなど。個人事業主のために第三者による証明が難しい職業や、プロとアマチュアの境界線があいまいな肩書きが多いように思います。

 確かに、自称○○省職員、自称○○自動車社員、自称○○銀行の行員、自称○○証券社員などのように、大きな組織や会社で自称を付けるケースは見たことがありません。

 中には、肩書き以外に自称が付くことも。年齢の裏取りに時間がかかってしまったのか、「自称10歳代の少女」といった表記を見たことがあります。

 ごくまれに「自称無職」というのを見ることがあります。無職であることの裏付けができなかったと思われますが、こちらは「職業不詳」と報道されることが多いです。

 現行犯などで逮捕から間がない報道の場合、裏取りの時間がないことから「自称」と付いてしまうことがよくあります。冒頭で引用した事件でも、逮捕後すぐのテレビニュースの記事は「自称」付きでしたが、翌日の朝刊では自称がなくなり、中央大学の学生と断定して報道されていました。

「自称」と付けられないために私が心掛けていること

 さて、フリーライターである私は、第三者による職業の証明が難しく、「自称」が付けられやすい人物と言えます。取調室で捜査員に対し「フリーライターです」「自営業です」といくら主張しても、証明するものはありません。捜査員も裏取りに苦労することでしょう。

 このようなことがないように、私は妻に対し、日頃からあることをお願いしています。そのやり取りについて、一部誇張を交えて紹介します。

私

もし私が警察に逮捕された場合、○○(妻の名前)は警察に何を差し入れてくれる?

妻

えーっと…。パ、パンツとシャツ…。

私

違う!

妻

それじゃあ…、カツ丼。

私

昭和の刑事ドラマか。

妻

何を持って行ったらええんよー。

私

私が万が一警察のご厄介になったなら、迷うことなく「開業届」の写しを持ってきてほしい。仕事用のラックの、上から5段目の引き出しにポケモンのクリアフォルダがある。その中に開業届を挟んでいるので、必ず持ってくるように。

妻

…。分かりました。

 オフィスや店舗を持っているフリーランスはともかく、私のように自宅の台所で記事を書いているフリーライターは、とかく仕事の実態が見えない傾向にあります。

 そんなしがないフリーライターにとって、肩書きを証明してくれる強い味方となるのが開業届。確定申告で税制上有利な青色申告な青色申告をする場合に必要な書類です。税務署へ提出すると必ず写しを渡されますので、保管しておくことをお勧めします。

まとめ ー「自称」と付けられないよう、真面目に生きようー

 今回は、事件報道でよく見聞きする「自称」について説明しました。

事件報道などで「自称」を使うパターン
・肩書きや住所、年齢を警察などの捜査機関が裏取りできない場合

 ニュースを見た際などに、思い出してもらえればうれしいです。

 「自称」と付けられないためには、肩書きを証明できる物を持参することが重要。そして何より、警察のご厄介にならないよう、悪いことをしないのが一番です。

その他の「ニュースに対する素朴な疑問」の記事

新聞記者

Posted by かく企画