「頭を強く打ち=原形をとどめていない」は不正確

2023年6月7日

いつもの<br>アナウンサー
いつもの
アナウンサー

病院に運ばれましたが、頭を強く打ち死亡しました

 交通事故などのニュースで、「頭を強く打ち」といったフレーズをよく見聞きします。具体的にはどのようなけがなのでしょうか。

 こんにちは、社長の藤田です。現在、フリーライターとして活動していますが、それまでの19年間は地方新聞社で記者などを務めていました。

 「頭を強く打ち」とインターネットで検索すると、ヒットするほとんどのサイトで「被害者の頭部が激しく損傷している状態」「頭部が原形をとどめておらず、治療が不可能」などといった説明がされています。

 これらの説明については、興味本位の記述であり、正確さに欠けていると言わざるをえません。

 確かに10トントラックなどにはねられ、手の施しようがないケースもあります。しかし、高齢者と自動車との接触や、キックボードなどの自損事故など、激しい損傷がない場合でも頭を強くっていれば「頭を強く打ち」といった表現をします。

 今回は、交通死亡事故の記事を書き続けてきた私の経験を踏まえ、正しい知識をお伝えしたいと思います。

幹線国道の凄惨な事故現場

 私が30歳前後に赴任したところは、幹線国道が縦断している都市でした。この国道は、日中は通勤や生活者の車で混雑し、深夜は長距離トラックがひっきりなしに走り続けるなど、24時間交通量の多い道路です。

 そういったこともあり、交通事故の取材が多く、玉突き事故で運転席が原形をとどめないトラック、出火して黒焦げになった乗用車など、目を背けたくなるような現場を踏むこともありました。

 「フジさん、医者も手の施しようがなかったようだ。断言はできんが、スピードが出すぎとったみたい」

 事故について報道発表した警察官から、このような話を聞くこともしばしばでした。

 そのたびに私は、「頭を強く打ち死亡した。○○署が原因を調べている」と記事に書いていたのです。

死亡事故で、いつも激しく損傷するとは限らない

 とはいえ、死亡事故だからといって、いつも頭が激しく損傷するとは限りません。頭を強く打つものの、目立った外傷が見られない、いわゆる「打ち所が悪かった」ケースもあります。

高齢者の事故の場合

 よくあるのが、お年寄りの事故です。自転車に乗っていて、後ろから来た乗用車が追い抜きざまに接触。お年寄りは転倒します。

 搬送当時は意識があったものの、その後容態が急変し、死亡。外観上の異状は少ないものの、脳が強い衝撃を受けていた、といった具合です。

 頭は強く打ったものの、接触事故ですので、頭部が原形をとどめていないという状況は考えづらいです。

 私自身も、交通事故に遭った高齢者の容態が急変し、死亡したという記事を何回か書いた記憶があります。話はそれますが、交通事故に遭った際は、軽傷だと思っても侮らず病院で精密検査を受けることをお勧めします。

キックボードの事故の場合

 また、近年普及が進んでいるキックボードでも、頭を強く打ち死亡するケースがあります。これに関しては、実際に死亡事故の記事を見つけましたので、一部を引用します。

事故があったのは25日午後10時45分ごろ。男性が○○区××6丁目のマンション駐車場内で電動キックボードを運転中、方向転換して走り出そうとした際に車止めに衝突。前から倒れて頭を強く打ち、搬送先の病院で死亡が確認された。

朝日新聞デジタル 2022年9月26日(一部地名を伏せた)

 キックボードで転倒し、頭部が激しく損傷して治療の施しようがなくなるというケースは少ないでしょう。

 このように「頭を強く打ち」という表現と、頭の損傷具合に相関関係はないのです。

全身を強く打ち

 「頭を強く打ち」と同じくらい使われるのが「全身を強く打ち」。これもネット界隈では「全身が激しく損傷していることを表している」と説明されていることが多いですが、頭と同様、損傷具合と相関関係はありません。

なぜ不正確な情報が出回るのか

 なぜ不正確な情報が出回るのでしょうか。

 テレビや新聞は多くの人が目にするもの(最近はそうとも言えませんが…)である一方、ニュースを取材する新聞やテレビの記者は、それほど人数はいません。全人口に占める割合はきわめて小さいと思います。

 そのため、職務上の情報については、一人歩きすることが多いのかもしれません。

 誤認や推測に基づいた情報がネットにアップされると、それが修正されないまま広がってしまい、今のような状態になっていると考えられます。

まとめ

 今回は、ニュースの常套句である「頭を強く打ち」をクローズアップしました。お伝えしたいのは以下の1点のみ。

・「頭を強く打ち」とあっても、必ずしも頭が激しく損傷しているとは限らな

 交通事故には気をつけましょう。

新聞記者

Posted by かく企画