続・人間の感情が渦巻く選挙の開票所
以前、選挙の開票所のエピソードについてブログにアップしました。今回は、そのとき紹介しきれなかったお話について書きたいと思います。投票所にドロドロと渦巻く人間模様をお伝えできればと思います。
こんにちは、社長の藤田です。現在、フリーランスのライターとして活動していますが、2002年から14年間、とある地方新聞社の記者として仕事をしていました。
職業柄、国政選挙だけでなく地方選挙の取材に携わる事が多く、開票所には数十回は足を運びました。今回は、開票所取材のエピソードをアラカルト形式でお伝えしたいと思います。
開票所とは
前回のおさらいです。本編とは関係ありませんが、前回の記事と今回の記事でサムネが若干違っていますので、見比べてみてください。
https://kaku-kikaku.com/vote_counting1/
開票とは、選挙で投じられた投票用紙の枚数を数え、集計することです。開票の結果、得票数の多い候補者が当選となります。
開票所は、市区町村ごとに大体1カ所設けられます。体育館や公会堂、ホールなど、広い公共施設で行われる場合が多いです。
開票は、投票終了後の午後9時から始まることが多いですが、地域によっては投票時間を繰り上げて午後7時や8時から始めるところもあります。
開票の流れ
大まかな流れは次の通りです。
- 投票箱を運ぶ
投票所から投票箱を運び込みます。タクシーや公用車で運ぶことが多いですが、離島では船で運びます。
投票日が悪天候となった場合、離島の投票は早く終了することがあります。 - 選挙管理委員長あいさつ
- 投票箱を開け、投票用紙を開票台に広げる
仕分け台は広いテーブル状のものが使われ、場所によっては卓球台を利用することもあります。
- 投票用紙を候補者ごとに仕分ける
ちょうど投票用紙が入る大きさの透明なトレーに入れて仕分けることが多いです。
スーパーで売られているイチゴの容器のような形をしているので「イチゴパック」と呼ばれます。本物のイチゴパックを使う場合があります。 - 疑問票(何と書いてあるか分からない票など)を審査する
「審査係」などと呼ばれる担当者が、票とにらめっこします。
- 計数機で数を数える
銀行にあるお札を数える機械のようなもので数えます。機械メーカーの名前を取って「ビルコン」と呼ぶ場合があります。
- 100票、500票などのキリの良い数ごとに束にする
- 開票立会人が最終確認
立会人は、各候補の支援者の中から選ばれることが多いようです。
- 確認済みの票を集積台に並べる
開票所取材でのエピソード
それでは、つれづれに書いていきます。
「野鳥の会」よろしく票を数える
選挙では、新聞社・テレビ局とも、他社より一刻も早く当選確実を出すために躍起になります。
以前別の文章で書きましたが、 選挙が始まる前から、後援会の事務所開きなどを逐一取材し、選挙が始まってからも、陣営幹部から情勢を聞き取ったり、事務所の雰囲気を見たり感じたりして女性を取材し、候補が当選するかどうかを予測します。
そして開票当日も、開票所でさまざまな情報を得ようとします。
重要なのは、開票の流れと作業場所の確認です。開票所を設置している段階で担当者から、どのように票が流れていくかを聞き取り、発表より前に票を数えることができる場所がないか探します。正式発表前におおまかな得票数をつかみ、当選確実を出す際の材料にするためです。
よくあるのは、最後の集積台で確定票の束を数えるパターンです。しかし、この集積台の位置は開票所によって異なります。
記者席の前にでーんと置いてくれる開票所もあれば、遙か彼方に集積台を置く意地悪なところも。
中には、集積台を置かず、確定するやいなや段ボール箱に詰める市もありました。「開票所が狭く集積台を置くスペースがないから」とのことでしたが、開票はオープンにすることが公職選挙法に定められていますので、不適切だと言わざるを得ません。
ある国政選挙での開票でした。私は同僚記者数名と、大都市の開票所を担当することになりました。与野党の勢力が拮抗し、有力候補2人による接戦が繰り広げられている選挙でした。
「仕分けされている票を数えてみよう」
ある先輩の提言で、投票箱から台に広げられた投票用紙の数えることとなりました。
台ごとに担当を決め、両手にカウンターを持ち、日本野鳥の会よろしく候補者名が書かれた投票用紙を数えていきました。そして結果を、デスクや編集幹部がいる本社に上げました。
もちろん、この結果だけで当選確実を出すわけではありません。しかし不思議なもので、得票数の割合は、開票結果と数%程度しか違わず、意外と信頼できる数値であることが分かりました。
異様に早い開票作業
私が担当した人口1万人強の町の開票作業の話です。
この町は、開票作業を早く終わらせることに、異常なまでに執念を燃やしていました。職員の皆さんは、選挙のたびに「県内1位を目指す」と息巻いていました。
比例代表の非拘束名簿方式(政党名、候補者個人名どちらでも書くことができる投票方法)を採用していて開票作業が繁雑な参院選でも、他の市が深夜2時、3時すぎまで開票しているのを尻目に、この町は11時には開票を終えていました。有権者千人くらいの村と同じくらいの終了時刻です。
ですので、開票所では毎回緊張感が張り詰めていました。選挙管理委員長の「始め!」の合図で、職員たちは無駄のない動きで、正確に票の仕分けを行っていました。
今から10年以上前の2010(平成22)年に行われたある選挙での話です。開票直前、やはり職員たちは引き締まった顔で、作業開始を今かと待ち構えていました。そして開始時刻が来て、選挙管理委員長が大声で言い放ちました。
「昭和22年 ○○町長選挙 開票始め!」
唐突な言い間違いに、会場全員がずっこけたのは言うまでもありません。それでも、いつもと同様に開票作業を終えたのは、さすがでした。
虫眼鏡で確認する立会人
前の文章でも開票立会人について書きましたが、これはとある先輩から聞いた話です。
ある小さな町ですが、この町は選挙のたびに「実弾が飛ぶ」(票の買収のために現金の授受が行われる)という噂が耐えない町でした。したがって、立会人も一癖ある人が多かったそうです。
ある議員選挙での開票作業でした。各候補の陣営から立会人が選出され、開票された票の確認をしていました。
その中の一人が、自分の候補の落選が濃厚となるとみるや、開票の遅延行為に出たのです。
この男は、ポケットからおもむろに虫眼鏡を取り出し、投票用紙を一つ一つ確認を始めました。
職員が早くするよう促しても、「いや、確認しているから」と言って、取り合いません。
結局この選挙の開票は、日をまたいで午前4時ごろまでかかったそうです。
翌日の新聞各紙には開票結果が掲載されず、翌々日の新聞で遅延行為について一斉に報道されました。
その町に抗議や苦情が殺到したのは言うまでもありません。
障がい者が一生懸命投じた疑問票
最後に、開票作業について、あるベテラン職員さんから聞いた話を紹介します。
開票作業で、一番厄介とされているのが、疑問票の確認だと言われています。
ほとんどの有権者は、投票用紙に有権者の氏名を書いて投票します。何も書かずに白票を投じることもでき、その場合は無効票となります。
面倒なのは、名前を間違っていたり、読めない字で書かれていたりする投票用紙。「審査係」とよばれる担当者が、有効か無効かを審査します。
みんながきれいに字を書けば問題ないのですが、汚い字で適当に書く人はどうしてもいます。その一方、障がいなどで思うように字が書けない方もいらっしゃいます。
ある海辺の都市の選挙でのこと。退職を間近に控えた、選挙の開票歴数十年の男性職員と雑談をしていたときでした。「もうすぐ選挙ですなー」などと話していて、ふとこのようなことを言いました。
長年開票作業に従事していたら、健常者がチャラ書きした字なのか、障がいのある方が一生懸命書いた字なのか、ある程度見分けが付くようになるんですよ
彼はこのように続けました。
一生懸命書いた字の場合、審査係は必死で字を解読し、可能な限り有効票にしようと尽力します。障がいのある方が投じた、貴重な民意を反映させるためです
選挙の公平性の観点から、本来は同じ一票の扱いに差があってはいけません。しかし、障がいのある人の政治参加について、日本ではまだまだ高いハードルがあります。そんな中で、できる限り民意をくみ取ろうとするこの行為は、許されるのではないでしょうか。
男性職員の柔和な表情を見ながら、そう感じました。
まとめ
今回は、開票所のエピソードをアラカルトでお伝えしました。これら以外にも、コンプライアンスの関係からブログには書けないようなエピソードもあったりするのですが…。それは酒を飲んだときにでもお話しできればと思います。
以前書いたように、選挙は人間の欲望や打算が最もドロドロと渦巻くイベントの一つです。
一方で、国や自治体の行く末を決める大切なイベントでもあります。
このブログを読んでくださった皆さんが、少しでも選挙に興味や関心を持ってもらえたらうれしいです。
ディスカッション
コメント一覧
まだ、コメントがありません