【白鶴まるオヤジ】人間の感情が渦巻く選挙の開票所

2023年5月31日

皆さんは、選挙の開票所に行ったことがありますか

 こんにちは、社長の藤田です。現在、フリーランスのライターとして活動していますが、2002年から14年間、とある地方新聞社の記者として仕事をしていました。

 票所に行ったことがある人は多かれど、票所に行ったことがある人は少ないのではないでしょうか。

 有権者が静粛に、淡々と投票していく投票所とは異なり、開票所には人間のいろんな感情が渦巻いています。当選者の喜び、悲しみだけでなく、選挙結果を一刻も早く知ろうとする有権者の熱気、円滑に開票を行う職員の緊張感、そして他の新聞社・テレビ局よりも早く当選確実を出そうとする記者たちの高揚感などが一つの空間に凝縮されています。

 今回は、数十回以上も行っている開票所のエピソードについてお話ししたいと思います。

開票所とは

 開票とは、選挙で投じられた投票用紙の枚数を数え、集計することです。開票の結果、得票数の多い候補者が当選となります。

 開票所は、市区町村ごとに大体1カ所設けられます。体育館や公会堂、ホールなど、広い公共施設で行われる場合が多いです。

 開票は、投票終了後の午後9時から始まることが多いですが、地域によっては投票時間を繰り上げて午後7時や8時から始めるところもあります。

開票の流れ

 開票は、市区町村の職員が行います。

 大まかな流れは次の通りです。

開票の流れ
  • 投票箱を運ぶ

    投票所から投票箱を運び込みます。タクシーや公用車で運ぶことが多いですが、離島では船で運びます。
    投票日が悪天候となった場合、離島の投票は早く終了することがあります。

  • 選挙管理委員長あいさつ
  • 投票箱を開け、投票用紙を開票台に広げる

    仕分け台は広いテーブル状のものが使われ、場所によっては卓球台を利用することもあります。

  • 投票用紙を候補者ごとに仕分ける

    ちょうど投票用紙が入る大きさの透明なトレーに入れて仕分けることが多いです。
    スーパーで売られているイチゴの容器のような形をしているので「イチゴパック」と呼ばれます。本物のイチゴパックを使う場合があります。

  • 疑問票(何と書いてあるか分からない票など)を審査する

    「審査係」などと呼ばれる担当者が、票とにらめっこします。

  • 計数機で数を数える

    銀行にあるお札を数える機械のようなもので数えます。機械メーカーの名前を取って「ビルコン」と呼ぶ場合があります。

  • 100票、500票などのキリの良い数ごとに束にする
  • 開票立会人が最終確認

    立会人は、各候補の支援者の中から選ばれることが多いようです。

  • 確認済みの票を集積台に並べる

中学生のとき、初めて開票所に

 記者時代、選挙取材で何十回も行った開票所ですが、初めて開票を見学したのは中学生のとき。地元の町長選挙でした。

 現職の引退に伴う、新顔候補同士の一騎打ちで、一方の候補を支援していた祖父が立会人に選ばれたのです。「それならじいちゃんの晴れ姿をひと目見に行こう」と、母親と一緒に開票所へ行きました。

 夜8時過ぎ。開票所では、すでに作業が始まっていました。開票作業のスタッフが縦横無尽に動き回り、会場はざわついた雰囲気に包まれていました。

 その奥で、我らが祖父はでーんと座り、謹厳な表情で開票作業を見守っていました。誇らしい姿を目にした私は思わず「じいちゃーん」と手を振りました。その瞬間です。

開票所スタッフ
開票所スタッフ

こらー、このクソガキ! 何をしよんなー!

 開票所のスタッフの1人が、切り裂くような声で私を怒鳴りつけました。実際に「クソガキ」とは言っていませんでしたが、言われたような心持ちでした。

 どうやら祖父に手を振ったことがいけなかったようです。そばにいた母親は「すいません、すいません」と何度も頭を下げていました。

 後から教わったのですが、開票作業に公平性を持たすため、立会人は見学に訪れた人と接触をするのが禁じられているのです。

 しかもこの選挙は、小さな町を二つに分かつような激戦でした。集合住宅のポストに現金入りの封筒が投げ込まれるなど、金による買収工作が公然と行われていました。そのため、スタッフもピリピリとしていたのです。

 ちなみに、祖父が支援した候補は見事当選。現金をまいていたのは相手陣営で、選挙後に運動員数名が逮捕されました。当選した方はその後も長く町長を務め、記者になって取材をさせていただいたこともあります。

白鶴まるオヤジの話

 とはいっても、実際のところ、立会人が外部の人物と接触していないかというと、必ずしもそうではありません。

 記者時代、開票所で不自然に耳を触ったり、頭をかいたり、伸びをしたりする立会人を多く見かけました。

 彼らは、見学に来た別の支持者に対し、合図を出して得票状況を知らせていたのです。

 「見てみ、あの立会人、もうすぐサインを出すからな」

 選挙取材で仲の良くなった人がこっそり教えてくれました。しばらく見ていると、本当に顔のあちこちを触り始めていました。

 そんな中、極めつきの立会人がいました。

 どこかの市(町だったかもしれない)の議員選挙のことでした。議員の選挙は、候補者が多いので、知事や市町村長の選挙と比較して開票に時間がかかるし、票を読むのも難しいと言われています。

 開票作業が終盤に差し掛かり、やっと大勢が判明しそうなころ、ある男性の立会人が突然立ち上がりました。いかにも演歌が、特に都はるみさんの歌が好きそうな男性です。

 何をするのかと思いきや、頭の上に両腕で大きな「○」をつくったのです。ちょうど日本酒のテレビCMで、俳優の矢崎滋さんが「白鶴、まる」とやるような格好でした。

 この人は、仲間に応援している候補が当選したことを告げたかったようです。あまりにも大胆な動きに、私も、開票スタッフもあっけにとられてしまいました。本来なら注意されるべき行為でしょうが、特にお咎めはありませんでした。

まとめ

 今回は、開票所についてのエピソードでした。興味がある方は、一度見学に訪れてはいかがでしょうか。

 この文章を書いているうちに、その他の開票に関するエピソードも思い出しました。また機会があればご披露したいと思います。

新聞記者

Posted by かく企画