辞めたい! 地方紙の記者たちの転職事情(後編)

 こんにちは。「かく企画」社長の藤田です。地方新聞社に記者や営業として19年勤めたのち退職。現在はフリーランスのライターとして活動しています。

 私自身が直接見聞きした話、あるいは第三者から伝え聞いた話をもとに、地方紙の記者たちはどんな業種に転職するのかを探るシリーズ。前編では、民間企業や公務員に移るケースなどを見てきました。

https://kaku-kikaku.com/job_change1

 後編では、同じ書く仕事に転職するパターンのほか、政治家への転身、起業について見ていきたいと思います。

記事の見方

 記事の見方のおさらいです。

 本稿では、職種ごとに「珍しさ」「転職のメリット」「続けるためのポイント」を提示。その後に簡単な解説、雑記などを付け加えています。

 珍しさは、転職する人の多さを独断と偏見で5段階評価。☆が多いほど転職者が多いことを示しますが、最高位の☆五つはありませんでした。

 転職はメリットだけでなく、当然デメリットも伴います。ただし、本稿では退職に前向なスタンスであるため、あえてデメリットを記していません。

 それでは見ていきましょう。

同業他社への就職

 全国紙、その他マスコミに転職し、書く仕事を続ける人もいます。

全国紙

【珍しさ】☆☆☆

【転職のメリット】仕事はほぼ変わらない。地方紙より大きなフィールド

【続けるポイント】転職先で何を書くかが重要。コマにならないように

 地方紙から全国紙へ転職する人は昔からたくさんいます。全国紙にとっても即戦力は貴重な存在に違いありません。

 「学生時代に全国紙を落ちて、やむなく地方紙に就職した」という人も、地方で力を付ければ中途採用枠で拾ってくれるかもしれません。

 ちなみに私は、地方紙からブロック紙(全国紙と地方紙の中間規模の新聞社)への転職を図りましたが、落とされました。

 転職後も仕事内容はほぼ変わりません。むしろ同じ新聞社の営業や印刷の仕事に変わるほうが、業務が激変します。地方紙よりも取材のフィールドが大きく、規模の大きい取材を経験するチャンスもあるでしょう。

 気をつけたいのは、「コマ」として使われないようにすること。ある全国紙では、「サツ回り」と呼ばれる警察取材の担当、地方の通信部の勤務、夜勤など、プロパー社員が嫌がる仕事を地方紙からの転職者に割り振っているそうです。

 「コマ」として扱われ、本意でない仕事を押し付けられないように実績を積んだり、あるいは立ち回ったりすることが重要となります。サツ回りや泊まり勤務が好きな人にとっては、願ったり叶ったりかもしれませんが…。

専門紙、出版社、編集プロダクション、その他書く仕事

【珍しさ】☆☆

【転職のメリット】仕事はほぼ変わらない。専門性を発揮するチャンス

【続けるポイント】転居、単身赴任、激務に耐えられるか

 農業、工業、アパレルなどの専門新聞への転職は、求人の数が圧倒的に少ないこともあり、数としてはそれほど多くありません。それでも、即戦力が重宝されるのは全国紙と同じです。社員を募集していなくても、とりあえず門を叩いてみてはいかがでしょうか。

 取材して記事にする点では他の新聞社と同様ですが、何と言っても専門性を発揮することができるのが大きなメリット。地方紙記者時代に得意としていた取材を、転職先で生かすことができれば最高です。

 全国紙への転職でもそうですが、所得が上がるか下がるかはケースバイケース。規模の小さい出版社や編集プロダクションの場合は、給与が下がる上に残業などで激務となる場合もあるようです。

 また専門新聞は、東名阪、札仙広福などの大都市しか取材拠点を置いていないことが多く、勤務地が限られることがほとんどです。特に出版業界は、著しく東京一極集中しており、地方での就職は極めて困難です。

起業、自営など

 転職ではなく、自分で会社を立ち上げたり、商売を始めたりするパターン。

広報などのコンサル

【珍しさ】☆

【転職のメリット】記者の経験を生かすことができるやりがいのある仕事

【続けるポイント】倒産など、財産的リスクへの対策と覚悟

 この仕事で独立した人は、私の回りにいませんので星一つにしました。それでもX(旧Twitter)などでのSNSではよく見かけるんですよね。露出が多い仕事だから目に付くのでしょうか。

 企業に対して効果的な広報をアドバイスする仕事は、プレスリリースを受け取る立場だった記者の経験を生かすことができます。クライアントに対し利益をもたらすことができれば、記者とはまた違ったやりがいを感じることができると思います。

 勤め人と違って時間の自由も利きます。倒産などの財産的リスクは避けることができませんが、うまくいけば己の才覚次第でいくらでも社会でのし上がることができます。

地方政治家

【珍しさ】☆☆

【転職のメリット】地方紙記者の経験を生かすことができる仕事

【続けるポイント】選挙が全て。何としても当選すること

 地方紙の記者から地方政治家に転身する人は意外と多いです。星は二つしか付けていませんが、絶対数の少なさを考えると多い部類に入ると思います。ちなみの全国紙の記者は地方行政より国政に進出するケースが多いようです。

 また、新聞社の社員が退職する際は、しばしば選挙に立候補するという噂が立つことがあります。私が退職したときには出馬の噂こそ立ちませんでしたが、「ある政治家の選挙のブレーンをしているらしいぞ」とささやかれていたそうです。

 実際に噂の立った政治家の選挙陣営に加わったことはなく、この噂はデマでした。たた現在は、ライティングの仕事の一環で、複数の方の政治活動についてお手伝いはしています。

 公務員と同様、政治家も新聞記者の経験を生かすことができる仕事です。「政治家は偉そうにいばっている」というイメージを抱いている人は多いかもしれませんが、その地位は有権者が思っている以上に不安定で、選挙で落選するとただの人になってしまいます。

フリーライター

【珍しさ】☆

【転職のメリット】記者と同じような仕事で、時間を自由に使うことができる

【続けるポイント】生活水準を下げて、余計なプライドを捨てること

 地方紙の記者からフリーライターになった人は私しか知らないので、星は一つとさせていただきました。

 ネットメディア、書籍など、媒体こそ異なりますが、取材してそれを記事にする点では記者と同じです。起業と同様、勤め人と違って時間の自由も利きます。

 地方紙時代によほどの実績や強みを積んでいないと、経済的・職業的に成功することは残念ながら難しいです。特に独立して数年は、所得は確実に下がると思ったほうがよいでしょう。とはいえ、細く長く続けることはできます。

 また新聞記者と比べて社会的地位は下がります。記者時代は名刺一つで当たり前のようにできていた取材がフリーランスではできなくなります。特に日本は記者クラブの制度があるのでなおさらです。

 余計なプライドは捨て、今できる仕事を一生懸命こなしていくと、やがて光明が見えてくる、かもしれません。

まとめ

 かつて他の稿でも書きましたが、「新聞記者はつぶしが利かない」と言われています。頭を下げない、正義を振りかざす、コスト意識がない、といった記者の仕事のスタイルが、他の職種への変更がしづらいと思われているからです。

 逆に言えば、上に挙げた仕事のスタイルを変えれば、転職先はいくらでもあります。また、“業界”に染まっていない若手であれば、キャリアチェンジの障壁は小さいので可能性は無限大です。

 生涯にわたって一つの仕事を貫くのは、とてもすばらしいことで、うらやましくも感じます。一方で、今や自由にキャリアチェンジをしていくのが世の流れになっているのも事実。仕事においても、自分らしい生き方をしていきたいものです。

転職活動

Posted by かく企画