事故報道の「その場で死亡が確認された」とはどのような状況?

新聞記者

 こんにちは。「かく企画」社長の藤田です。現在はフリーライターとしてさまざまな記事を書いていますが、以前は新聞社に勤務し、記者と営業職を経験しました。

 以前、ニュースの常套句である「頭を強く打ち」という表現について書きました。事故などの犠牲者の容態を伝える際によく使われる言葉ですが、必ずしも頭が損傷しているとは限らず、低速での事故の場合でも使われます。

 今回は、この言葉と同じく見聞きする「その場で死亡が確認された」という表現について考察したいと思います。具体的にどのような状況を指すのでしょうか。

「頭を強く打ち」の意味のおさらい

 前回記事のおさらいを兼ねて、「頭を強く打ち」という表現について触れたいと思います。

頭の損傷具合に関係なく用いられる

 このフレーズが表すのは、文字通り「頭を強く打った」ということ。言葉通りの意味で、それ以上も以下もありません。

 頭の損傷具合に関係なく、目立った外傷がない場合でも用いられます。

 例として、高齢者の自転車事故を挙げることができます。ゆっくり自転車走っている最中、バランスを崩して転倒し、不幸にも打ち所が悪くて命を落とした、といった場合です。

 最近では、都心部を中心に普及が進むキックボードでの事故でも使われていました。低速で方向転換をしようとしたところ、障害物に衝突、病院で死亡が確認された際にも「頭を強く打ち」との記述がありました。

 具体的な損傷の程度や状況を示すわけではなく、あくまで事故の結果の深刻さを伝えるための抽象的な表現と捉えればよいと思います。一部ネットでは、「被害者の頭部が激しく損傷している状態」「頭部が原形をとどめておらず、治療が不可能」などといった説明がされているようですが、正確とは言えないでしょう。

「その場で死亡が確認された」の本当の意味

 同じように、「その場で死亡が確認された」も事故報道で頻出します。この表現も、文字通り「その場で命が絶たれた」という状況を表しています。このフレーズは、どちらかといえば新聞よりもテレビのニュースで使われることが多いように感じます。

死亡確認できるのは医師のみ

 我が国において、死亡の確認は医師のみが行うことができます。医師法では、死亡診断書や死体検案書の作成、交付の義務が医師に課せられています。

 第二十一条 医師は、死体又は妊娠四月以上の死産児を検案して異状があると認めたときは、二十四時間以内に所轄警察署に届け出なければならない。

医師法

 事故に遭った人を病院に運び、医師が心臓の停止、呼吸の停止、脳波の停止などを確認し、死亡診断書や死体検案書を作成するのが一般的な流れです。

損傷具合に関係なく用いるが、重篤な場合が多い

 しかし、すべてのケースが病院に搬送されるわけではありません。医師の判断を仰ぐまでもなく、体の状態から誰が見ても死を判断できる場合は、現場の救急救命士がその場で死亡を判断します。このような状態のことを「社会死」と呼びます。

 死亡しているかどうかは一定の基準によって判断されます。すべての基準を満たした場合のみ社会死とされ、病院へ搬送されることはなく、延命治療も行いません。

 ここでは社会死の判断基準について詳しく触れませんが、例えば以下のような事例が該当します。

・白骨化している
・一部、全部が腐乱している
・バラバラ遺体
・原形をとどめていないなど、体の損傷が激しい場合

 ここで注意したいのは、「あたまを強く打ち」と同様、損傷の激しさで一律に評価するとは限らない点です。例えば脳流出の場合でも命が助かるケースはあるそうで、「脳が出ている=その場で死亡を確認」とはなりません。

 とはいえ、誰が見ても死を判断できる体の状態なので、口にするのがはばかれるほど重篤な場合が多いと言えるでしょう。

ほとんど見なくなった「即死」という表現

 今から30年ほど前は、事件報道で「即死」という言葉がよく使われていました。私も中学生から高校生の頃、新聞の社会面でよく目にした記憶があり、「あーおとろっしゃ(「あー恐ろしい」の意味)と思っていました。

 しかし現在はほとんど目にすることはなく、私自身も書いた記憶はありません。ただ、事故の凄惨さを表すために「即死状態だった」などと記載することはあります。特に事件・事故報道に強いとされるメディアで用いられることが多いようです。

まとめ 重体・重傷・軽症の違いと併せて理解しよう

 今回は、「その場で死亡が確認された」など、ニュースの常套句についてでした。

・頭を強く打ち:損傷具合に関係なく、頭を強く打った際に用いられる

・その場で死亡が確認された:白骨、バラバラ遺体など、誰が見ても死を判断できる場合。損傷が激しいこともありうる

 別の記事で、「重体」「重傷」「軽症」の違いも説明していますので、そちらもご参照ください。

新聞記者

Posted by かく企画