税務署に調べられた子ども時代 書道の思い出

2023年4月2日

 「かく企画」社員の仮面ライターです。学歴も会社も頼れない時代ですが、あせってばかりでは、長い目で見ると仕事は長続きしないと思っています。今日は、独立や副業のスキルアップなどの話から離れて、趣味の話をしたいと思います。あくまで個人的体験と感想です。教訓めいた話ではありませんので、気楽に読んでいただけたらありがたく思います。

半世紀ぶりの体験

 先月、書道をする機会がありました。考えてみたら、25年ぶりくらいに筆を手にしました。もちろん、結婚式などの祝儀袋に筆ペンで字を書くことがありましたが、本物の筆を半紙にすべらせるのは久しぶりでした。墨をすることはしませんでしたが、たった二文字をバランスよく、筆の先まで神経を集中して書くという作業は楽しいことでした。そして、書けば書くほど昔習ったことを思い出しました。

 私の母は書道を本格的にしていました。そのため、幼稚園児の時から私は母に習いました。最初は私だけ。そのうち、弟も習うようになりました。私が書道をしているので、近所の友だちも母から教えてもらうようになりました。一時は、20人くらいが毎週月曜日に私の家に来て、書道をしていました。

 とても狭い集合住宅で、よく人がたくさん来たものだと今では思います。書道の日は大忙しでした。ビニールシートを家中に敷きます。テーブルも家にあるものすべてを出して、近所からも借りてきました。台所も片付けます。

 書道が終わった後、筆や硯の墨をきちんと拭かなかったり、墨汁のボトルのキャップを締め忘れたりする子どもがいて、家がよく汚れました。筆を持ったままうろつく子が、ふすまに墨をつけることもありました。玄関に置いてあった毬藻は、やってきた子どもたちが触るので、すぐにボロボロになりました。私の机は、中学生くらいの子が使うので、引き出しの中を見られるのではないかと思い、思春期の頃は嫌でした。

 ある時には、税務署の職員が家に来ました。会員になっている書道団体に出品するために、母が冊子を人数分発注していたことがきっかけでした。つまり、この冊子の注文をかぎつけて、書道教室をしていることを把握した税務署が、納税をしていないのではないかと見込んで、やって来たのです。

 ところが、母は1円もお金を取っていませんでした。冊子代は生徒が払いますが、無料教室だったのです。考えてみれば、近所の人たちは知り合いです。お金をもらいにくい環境だったと思います。母にお金を受け取るようにと、幼なじみのお母さんが言っていた記憶がありますが、断っていました。

 結局、税務署の人は帰りました。ただ、それをきっかけに、1人1000円の月謝を払うことになりました。人数が増えすぎたのが原因で税務署職員が来たので、この際だからと、生徒の親たちが母にお金を受け取るように強く言ったからです。

 話は脱線しましたが、母が書道教室で言っていたのは、字を書くことだけではありませんでした。道具の使い方などの所作が大切だと教わりました。姿勢が良くないと良い字は書けないのは当然です。筆は大切に使えば長く使えます。一度書いた紙でも余白があれば、小さな字の練習に使うことが出来ます。乾かせば硯をふくことが出来ます。

ロックな女性書家

 脱線ついでにもう一つ。高校に通っていた頃、芸術科目が書道でした。先生は、高校受験の時に失敗して、中学卒業後に浪人して高校に進学した人でした。そういうことがあったからか、静かな人ですがとても味わいのある話を聞かせてくれました。

 書道の時間は2時限連続。私たちが書いている間に、書家の話などを聞かせてくれます。特に覚えているのは、大田垣蓮月という人です。とても美しく、出家しても男性が寄ってくるほどだったといいます。俗世と離れるために、石で前歯を折って、醜い顔にして男性に言い寄られないようにした、という話を先生から聞きました。

 そういう話を聞いた後、彼女の書を見ると、字のやわらかさと、凄まじい生き方のギャップが印象に残りました。高校生でロックが好きだった私は、この書家にロック的なスピリットを感じ、好きになりました。

何かに集中することで得られること

 久しぶりに取った筆を動かしながら、これまでに教わったことを思い出しました。

 書道をしている時は、筆に集中します。筆の先が線の真ん中を動くように、筆を運ぶようにしています。それがなかなか思う通りには行きません。

 高校の先生はよく言っていました。

 「字がきれいかはどうでもいい。線がきれいかどうかだ」

 先生が字を書き終えた後すぐに見ると、線の真ん中が少し膨らんでいました。筆先がそこを通った跡です。

 久しぶりの書道でも、筆先の動きを大切にしました。書けば書くほど心が落ち着き、すっきりとした気持ちになりました。

 心理学の専門家でユーチューバーの江波戸武士さんが、時々、何もしない時間を作ることを勧めていました。何か別のことに集中していると、リラックスし、仕事のアイデアが浮かぶという話だったと思います。

 週に1回くらい、書道をするのもいいかもしれないと思いました。みなさんは、どんな趣味をしていますか?

趣味

Posted by かく企画