ハンセン病見学クルーズに参加して ―②歴史館で見る入所者の生活―

2023年6月10日

 こんにちは、社長の藤田です。

 「学歴も会社も頼れない時代にどうやって生き延びるか」をテーマに、転職、独立・フリーランス、文章スキル、取材手法について書いてきている本ブログ。6月は趣向を変えまして、ハンセン病に対する理解を深める「見学クルーズ」の体験記を毎週金曜に4回にわたって掲載しています。

 初回は、岡山県の離島・長島にある国立ハンセン病療養所・長島愛生園内で見学した遺構をたどり、差別と偏見にまみれた隔離政策の様子を今に伝える数々の“時代の証人”を紹介しました。

 2回目となる今回は、長島愛生園について紹介した上で、園内歴史館の展示物から、かつての入所者の生活を垣間見たいと思います。

入所者の信仰と「見えない線」

 写真は愛生園の案内図。上陸したのは、「現在地」と書かれたところから西にある細い船着き場です。施設は大まかに事務本部から西(地図だと左)の本土寄りに職員の官舎や看護学校があり、東側(同右)に入所者の居住区があります。

 地図が小さいので拡大します。

 写真右の「センター地区」「西部地区」などと書いてあるのが、入所者が住む居住区です。居住区には「真宗会館」「ロザリオ教会」などの宗教施設も点在しています。愛生園には仏教、キリスト教、天理教の施設があるとのこと。療養生活を重ね、回復してもなお社会に出ることが難しかった人々にとって、信仰は何よりの心の支えとなったことでしょう。

 また病気に対する誤った考えから、かつて事務本館と居住区との間は行き来が制限されていました。さしずめ「見えない線」が引かれているかのようだった、とのことです。

ハンセン病とその歴史を伝える資料館

 看板があったところから海沿いに歩き、坂道を少しばかり登ると、緑のツタが絡まるひときわ目を引く建物が見えてきました。ハンセン病とその歴史を今に伝える「長島愛生園歴史館」です。

 建物は、愛生園が誕生した1930年に建てられており、当時は事務本館の役割を果たしていました。その後老朽化により事務機能は現在の本館に移されましたが、ハンセン病問題について学び、社会に残るさまざまな人権問題について考える場を設けようと、2003年に内部を改装し、歴史館としてリニューアルしました。

 1階には常設展示室や映像室、園長室、2階には企画展示室などがあります。

展示物 ー①ジオラマー

 ここからは、歴史館内の展示のうち、2点を選び紹介します。

  写真は、1955年ごろの愛生園を再現したジオラマです。1人の入所者が3年かけて制作したと言われています。当時は1800人ほどが生活していたとのことで、人口密度はかなり高かったことでしょう。

 戦前の愛生園では、入所者が増える一方で、資金難から住宅を増やすことができず、大きな課題でした。当時の園長・光田健輔は、企業などから寄付を募り、10坪(約20畳)ほどの小さな住居をいくつも建てました。これは「十坪(とつぼ)住宅」とか「寄付寮」と呼ばれました。

 それでも住宅難はなかなか解消されず、一つの部屋に複数組の患者夫婦が住むことが常態化しており、プライバシーなどはあったものではありませんでした。

 ジオラマの中に「自殺場所」と書かれた崖を見つけました。将来を悲観し、海に身を投げて自ら命を絶つ人もあったようです。

 上の写真の左側の半島を回り込んだところが、ジオラマの自殺場所です。われわれが訪れた時間は引き潮で、トンボロ現象で向かいの小島と地続きになる姿を見ることができました。穏やかな風景ですが、幾度もあったであろう悲劇を考えると、風景を素直にめでることはできませんでした。

展示物 ー②音楽・文芸活動ー

 世間と隔絶させられた入所者にとって、音楽、芸術活動が何よりの楽しみだったということは想像に難くありません。愛生園では、入所者たちがバンドを組み、発表会などを開いていました。写真のコントラバスとドラム、旗は当時使われていたものです。

 また、写真奥の提灯は歌舞伎の道具です。「愛生」の文字をかたどったマークが入っています。

 文芸活動も盛んで、入所者たちは随筆、川柳、短歌、俳句などの結社が作られていました。

 中でも有名なのは、歌人の明石海人(1901-39年)です。小学校教員だった海人は、25歳のときにハンセン病を発症し、愛生園に入所。すぐに俳句や短歌、随筆などに取り組みました。37歳で亡くなりましたが、死後に歌集「白猫」がベストセラーとなりました。

 今回紹介したのは、展示物の本当にごく一部。時間の都合でじっくりと見ることができなかったので、また行く機会をつくりたいと考えています。

歴史館の開館時間

 歴史館の開館時間は9:30~16:00で月、金曜休館。見学には事前予約が必要です。ぜひ足を運んでみてください。

 前回と今回の2回にわたり、園内の遺構や展示物を紹介してきました。次回は、ハンセン病のメカニズムや治療法、歴史、患者たちがいかに差別を受けてきたかなど、総論的な部分を解説します。見学クルーズでの解説、本で読んできたこと、さらに記者時代に得た知識をもとにまとめていきます。

自己紹介

Posted by かく企画