ハンセン病見学クルーズに参加して ―③正しい知識で差別をなくそう―
こんにちは、社長の藤田です。
「学歴も会社も頼れない時代にどうやって生き延びるか」をテーマに、転職、独立・フリーランス、文章スキル、取材手法について書いてきている本ブログ。6月は趣向を変えまして、ハンセン病に対する理解を深める「見学クルーズ」の体験記を毎週金曜に4回にわたって掲載しています。
初回は、岡山県の離島・長島にある国立ハンセン病療養所・長島愛生園に残る遺構について説明し、差別と偏見にまみれた隔離政策の様子を今に伝える数々の“時代の証人”を紹介。2回目は園内歴史館の展示物から、かつての入所者の生活を見てきました。
3回目となる今回は、ハンセン病のメカニズムや治療法、歴史、患者たちがいかに差別を受けてきたかなど、総論的な部分を解説します。見学クルーズでの解説、本で読んできたこと、さらに記者時代に得た知識をもとにまとめていきます。
治療法が確立され完治する病気
ハンセン病とは、らい菌という菌がおこす慢性の感染症です。らい菌の大きさは1ミリの1000分の1より少し大きい程度。ハンセン病の名前は、らい菌を発見したノルウェーの医師アルマウェル・ハンセンにちなんでいます。
皮膚に出る症状として、白く色が抜ける▽赤い斑紋ができる▽こぶができるーなどといったことが挙げられます。また、治療せずに放置して神経が冒されると、筋肉の動きが弱くなったり、指が固まったり、熱い、痛いなどの知覚が分からなくなったりといった症状が現れ、後遺症が残ることとなります。
上の写真は、ハンセン病の患者が使っていた湯飲みです。写真では分かりづらいかもしれませんが、側面が二重構造になっています。神経が冒されて知覚が麻痺した患者は、熱いのを知らずに湯飲みを持ってしまうので、やけどを負わないよう二重になっているのです。けがややけどを負ってもそれに気づかず、傷が化膿してしまい、手や足を切断する悲劇もあったということです。
しかし、冒頭に書いたとおり、現在では治療法が確立され完治する病気となっています。そもそもらい菌の感染力は弱く、栄養状態や衛生状態がよい日本ではほとんど発症することはありません。現在の新規患者は年間数人程度で、衛生状態の悪い外国で感染した人がほとんどです。
差別の歴史と国による隔離政策
ハンセン病の歴史は古く、紀元前のエジプトやインドの古文書のほか、わが国の日本書紀にも記述が残っています。手、足、顔など、服などで隠せないところに後遺症が出ることから、昔から差別の対象とされてきました。日本では、差別の矛先が家族に向かないように患者が故郷を離れ、各地を放浪したり、河原や寺の門前で物乞いをしたりすることもありました。
明治に入り、近代化を急ぐ政府は「らい予防に関する件」「癩予防法」の法律を作り、放浪患者を強制的に療養所に収容する方針をとりました。さらに、強制収容は自宅できちっと療養している人に対しても適用されました。
放浪、在宅患者を療養所に送り込み、地域での患者ゼロを目指す社会運動(無らい県運動)も戦前から戦後にかけて展開され、患者の人権は大きく侵害されたのです。
戦後、プロミンという特効薬が日本にもたらされ、ハンセン病は治る病気となったにもかかわらず、隔離政策は続けられました。無らい県運動などで、ハンセン病は恐ろしい病気、かかってはいけない病気という誤った考えが社会から払拭されなかったからです。
癩予防法を受けて戦後制定した「らい予防法」のもとで誤った考えは直されず、1996年に法律が廃止されるまで隔離政策は続けられました。
21世紀にやっと尊厳が回復
ハンセン病患者を隔離することを認めたらい予防法は憲法違反だとして、ハンセン病の元患者たちは国を相手取り、1998年に国家賠償請求訴訟を起こしました。らい予防法は96年に廃止されましたが、隔離政策の過ちや元患者に対する責任はうやむやになっていました。国の責任を明確にし、人間としての尊厳を回復したいとの思いから、裁判を起こしたのです。
そして2001年、熊本地方裁判所は国の隔離政策の誤りを認める原告全面勝訴の判決を下しました。通常なら高等裁判所に控訴されるところですが、当時の小泉純一郎首相は政府内の反対を押し切って控訴しないことを決断。元患者と面会し、謝罪しました。
また、元患者の家族たちも差別偏見などを受けたとして国に謝罪と損害弁償を求める裁判も起こされ、2019年に家族側勝訴の判決。当時の安倍晋三首相も異例の控訴しない判断をしました。
ただ、隔離政策の過ちや国の責任が認められてもなお、ハンセン病の元患者の団体が温泉旅館に宿泊拒否される問題が起きています。差別や偏見は根強く残っているのです。
最終回の次回は、本土から国立療養所までの船での道中で見えた景色や、差別と偏見の歴史をたどる際には触れないわけにはいかない「人間回復の橋」について書きたいと思います。
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