若者が少ない田舎の集団合コン取材

 こんにちは。「かく企画」社員の仮面ライターです。

 みなさん、合コンしてますか? コロナで機会がない? 既婚者だから出来ない? そもそも恋愛に興味がない?

 そういう私も、ずいぶん長いこと合コンに参加したことはありません。今回は、記者時代に潜入取材をした合コンパーティーについて書きたいと思います。

 「役に立たない話」ですので、この記事からなんらかの効用を求めないでいただけたら幸いです。

若者が少ない地域

 もう15年くらい前のことです。私は、人口減少が続く港町で記者をしていました。自治体は、あの手この手で人口を増やすために少ない予算で施策を行っていました。

 ただ、どうしてもそういう施策は、聞いたことがある話が多く、取材をして記事にするものの、書いた側としては物足りなさを感じていました。

 ある日、市役所に間借りしている記者室に行くと、広報資料が置かれていました。その中で目を引いたのが、集団合コンの話でした。

 リゾートホテルの上階ラウンジを貸し切り、合コンをするというのです。自治体が主催に入っていたかは覚えていません。参加費は、飲食代くらいは必要だったように記憶しています。

 隣の席にいた、別の新聞社の記者とその広報について話ました。私はおもしろいと思ったのですが、彼は「うちは取材しても掲載させてもらえないような気がします」と言いました。

 主催者に当日の会場で取材ができるかを問い合わせるとOKでした。

 開催日は2、3週間先。主催者の人からは、「記者の方も、恋人がいなければ、取材がてら本気でいい人を探してください」と言われました。当時の私は、恋人がいませんでした。取材とか気取ってないで、ここは楽しもうと、一般参加兼取材ということで、会場に行くことにしました。

合コン会場に潜入

 合コン当日になりました。会場入り口で手続きをすませ、中に入りました。

 参加者は男女半々で、合計40~50人いたと思います。ホテルのラウンジですから、会場は広いのですが、男性はほぼ全員壁に張り付いていました。まるでゴキブリのようです。

 女性たちは、食事や飲み物が置かれたテーブルを囲んだり、ソファスペースに集まったりしていました。

 ゴキブリと化した男性陣を横目に、私は2人組の女性たちに話しかけました。半分取材ですから、恥ずかしいという気持ちはありません。どんな人が来ているのか。実際に出会いがないのかなど、聞きたいことがいくつもありました。

 ところが、女性たちはあまり話をしません。3組目くらいで気がついたのですが、なかにはサクラがいる模様。サクラというと主催者に悪いのですが、飲食店に勤務している人たちが、主催者に頼まれて、女性比率を上げていたのです。

 「なるほどなぁ。主催者は大変だ」、なんて思っていると、会場にアナウンスが流れました。

 会場入り口で渡されたネームプレートには、番号と名前が書かれていました。司会者は、男女2人ずつの4人グループができるように番号を発表し、グループを作るように指示をしました。

 壁に張り付いている男性たちを動かす作戦です。よく考えられています。

 私は、隣の市で造園業をしているという2、3歳若い男性と一緒になりました。女性の2人は看護師だと言いました。

 取材も兼ねて来ていることを3人に説明。「名前は出さないし、自分のことを書いてほしくなければ言ってください」と伝えました。3人は、快く取材に協力してくれると言いました。

 ところが、このあたりから私に不幸が降りかかり始めました。

 看護師の1人と話がはずみ、いい感じに。ところが、デスクからひっきりなしに問い合わせが来ました。

 当時、私が書く記事のほとんどは地域ニュースだったのですが、その日に限って、随分前に出した原稿が全国ニュースとして採用されてしまいました。

 私の地域のデスクは、合コンに参加しながら取材をしていることは把握しています。ところが、そのデスクの上に、本社デスクという人がいて、ああでもない、こうでもないと、いくつも質問をしてきました。

 その度に携帯電話がなり、一緒のグループの人たちに断って、会場外に出ました。

せっかくのチャンス逃す

 何回目かの会場抜けの後、グループ替えが行われていました。造園業の男性は、また一緒。別の女性2人組とグループになりました。

 せっかく、話が合った看護師たちは別の男性たちのところへ。「今度こそ、連絡先まで聞くぞ」と、気持ちを切り替えました。

 2ラウンド目に入り、女性の1人が私に耳打ちをしてきました。

「あの男性は知り合いですか?」

「いや、今日知り合いになったんですけど。どうかしました?」

「怖いです」

 会場にいた男性のほとんどがスーツ。造園業の彼も、スーツと言えばスーツなのですが、白地に襟なしの上着。スーツというよりは、白い学ランのようです。

 髪型は、職人さんだからでしょうか、角刈りでちょっとソリコミが入っていました。言われてみれば、不良高校生の映画の登場人物のようです。

 実際に彼と話をしてみると、怖い人ではなく、どちらかというとシャイで人懐っこい感じ。初めてあったのに、私を先輩扱いして、礼儀正し人でした。

「今日あったばかりですが、いい人だと思います」

 そう言ってフォローすると、また、私の携帯が鳴り始め、離脱。本当にいい加減にしてほしいと思いながら、会場を抜ける私。

 2時間ほどのイベントのうち、半分以上の時間を本社デスクの問い合わせに使うという運の悪さ。長々とした問い合わせ電話に応対し、会場に戻ると、グループ・タイムは終了。白い学ランの角刈り職人は、一人寂しく壁にへばりついていました。

 彼は自分ひとりでは女性に声をかけられず、「一緒にいてもいいですか」と聞いてきました。彼とコンビを再結成して、片っ端から、わずかな残り時間の間、声をかけ続けることにしました。

 すると、「さっきの看護師さんが、先輩に興味があると言ってました。探しましょう」と、角刈り職人が言いました。

 会場は薄暗く、なかなか見つかりません。義理堅い白学ラン職人は、なぜか私のためには一生懸命です。途中、話が合う別の女性ペアと出会ったのですが、彼は「次行きましょう」と頑なでした。

 結局、看護師さんを見つけることが出来ず、角刈り職人と電話番号を交換して別れました。

合コン後 まさかのめぐり逢い

 角刈り職人は、私に興味を持ったという女性の名前を覚えていて、合コン後、いくつかの市の電話帳を調べ続けました。ある日、彼から電話があり、調べ続けたが見つからなかったと教えてくれました。

 そして、その数日後、彼に恋人ができました。

 角刈り職人は、合コン終了後、会場の外で、私に興味を持った人を探したそうです。そのとき、自分の連絡先を書いた紙(事前に準備していたが、合コンのときには1枚も配れなかった)を、数人の女性に手渡して、「心当たりがあったら連絡をください」と、頼んで回ったそうです。

 連絡先の紙をもらった女性が、彼の義理堅さにひかれて、電話をして、交際が始まったとのことでした。

「先輩、すみません。僕にだけカノジョが出来てしまって」

 私は心からうれしく思い、義理堅さの大切さを実感しました。

 後日談ですが、合コン体験記は、「おもしろいが新聞記事向きではない」と、デスクに却下されました。そして、合コン当日に、さんざん問い合わせを受けた記事ですが、締め切り間際に、そこそこ大きな事件が発生し、飛ばされてしまいました。