公務員と行政取材記者必携 ー自治体の財政や予算が分かる本3選ー

2023年5月13日

 「世の中ゼニや!」とよく言われます。今回は、ゼニで回る世の中を理解するために、おすすめの本を紹介します。

 こんにちは、「かく企画」社長の藤田です。かつてとある新聞社に勤めていましたが、2021年退職。現在はフリーランスのライターとして活動しています。

 新聞記者時代は、市町村などの地方行政の取材に長く携わりました。長いと言っても、記者経歴自体が14年しかないので、そのうちのたった12年くらいです。

 担当した市町村は、人口数万人規模の小さなまちが多く、そのほとんどが財政状況の悪い自治体でした。必然と、まちの懐事情について取材することが多くありました。

 今回は、自治体の財政を取材する上で役に立った本を3冊紹介します。公務員の方はもちろん、記者にとっても、きっとためになるはずです。

市町村の財政と予算とは

 少し駆け足になりますが、自治体財政と予算のあらましを記したいと思います。国、県、市町村で少しずつ仕組みが違うので、市町村をベースに説明していきます。

予算とは

 国や県、市町村などの行政組織が立てる、一年間の収入と支出の見積もりのことを「予算」と言います。以前「フリーランスも予算を立てよう」という文章を書きましたが、市町村においても1年間のお金のやりくりの計画を立てているのです。

 一般市民にとってあまりなじみのない「予算」ですが、行政サービスはすべて予算によって配分されたお金によって行われています。予算がないと、まちは機能不全に陥ります。

 例えば、役所や消防署は機能しません。道路や橋、トンネルの補修も行われず、家庭ごみはごみステーションに積み上がったまま。水道も使えません。仮に井戸水が使えたとしても、下水道が機能しないのでトイレは流せません。

 冒頭で言ったとおり、世の中は税金というゼニで回っているのです。

歳入と歳出

 1年間の収入のことを「歳入」、支出のことを「歳出」と呼びます。

 歳入とは、地域の住民や企業からあつめる税金(住民税・法人税)以外にも、地方交付税(国がくれる小遣いのようなものと考えてください)、県補助金(県がくれる小遣い)、市町村債(借金して得たお金)などがあります。

 歳出は、民生費(福祉に使うお金)、土木費(道路工事などのお金)、教育費(小中学校の運営費)、公債費(借金の返済金)など、使い道ごとに分けられています。「義務的経費」「投資的経費」などの性質別の分け方もありますが、ややこしいので今回は省きます。

 

予算の編成

 自治体の予算は、4月1日から3月31日までを1クール(会計年度)として編成します。予算案の編成は前年度から行われ、税金などの歳入額を見積もった上で、それを使い道ごとに振り分けます。

 とはいってもお金が足りない場合がほとんど。債権を発行して政府や銀行からお金を借りたり(これを起債と言います)、あらかじめ積み立てておいた貯金のようなもの(これを財政調整基金と言います)を取り崩したりして不足分を補います。

 編成した予算案は、市町村行政のチェック機関である議会で審査。可決承認されれば、消防、道路工事、ごみ収集、上下水道などのサービスが提供されます。

繰越はできない、単式簿記を採用

 編成した予算は、どんなにお金が余ったとしても、原則として翌年に繰り越すことができません。

 「使い切り予算」という言葉を聞いたことがないでしょうか。最近はあまりありませんが、年度末になると、余ったお金を重要でない事業につぎ込んだりするのは、繰り越しができないからです。

 ちなみに、企業会計が複式簿記(借方と貸方が別れている)のに対し、官庁会計は単式簿記を採用しています。

 まだまだ説明したいところですが、肝心の本の紹介にたどり着かないので、このあたりにします。

自治体財政、予算の取材のために読んだ本

 私が自治体財政、予算の取材のために読んだ本は、次の通りです。

・「一番やさしい自治体予算の本」 定野司著 学陽書房

・「一番やさしい自治体財政の本」 小坂紀一郎著 学陽書房

 名前の通り、自治体財政、予算について、非常に分かりやすく解説してあります。学生や若手公務員、地方議会の1期目議員らを読者として想定しているようです。

 「予算の本」は、予算の仕組みや編成の流れなどについて詳しく解説。自治体財政、予算の現状や抱える課題についても触れており、どちらかと言えば公務員などの実務者向けの本です。

 「財政の本」は、税金の種類や地方交付税など、お金の出入りについての説明が充実。「長期事業に注意」「ハコモノにご用心」など、予算書を読み解く際の勘どころが書かれており、行政をチェックする議員向けの本と言えます。

 記者の場合、「財政の本」を先に読み、その上で「予算の本」を読むと理解が深まると思います。

公立病院の取材のために読んだ本

 上記2冊以外にも、企業会計の決算書の読み方についての本を読みました。「やさしい決算書」みたいなタイトルでしたが、誰かに差し上げてしまい、手元にないため詳しいタイトルが分かりません。

 この本を買ったのは、公立病院の取材のためでした。前述の通り、官庁会計は単式簿記ですが、公立病院、上水道、路線バスなどは「公営企業会計」という、一般企業と同じ複式簿記が採用されることがあります。財務状況を確認するためには、貸借対照表や損益計算書、キャッシュフロー計算書を読まなくてはなりません。

 私が赴任したまちは、いずれも公立病院が課題を抱えていました。

 ある病院では建物や施設が老朽化して勤務医が集まらず、外科手術ができなくなってしまう事態に陥りました(今では建て替えられ、立派な病院になったそうです)。

 別の病院では、何十年にもわたって赤字が続き、その都度税金で埋め合わせていました。赤字の累計額は30億円以上にまで膨らんでいました。

 ただ、初歩の初歩を書いた本でしたので、付け焼き刃の知識しか身に付きませんでした。決算書を読む力は、のちに取り組む簿記の勉強で大きく身に付いたと感じています。

とっつきにくい役所の予算をいかに分かりやすく伝えるか

 自治体の予算は、とっつきにくいトピックです。おそらくこの文章も、低いPV数(閲覧数)となるでしょう。

 しかしこれまで書いてきたとおり、住民の生活に直結する、とても重要なニュース。これをいかに分かりやすく伝え、関心を持ってもらえるかが、記者の腕の見せ所となります。

 ただ残念ながら、予算を伝えるニュースの中には、不親切な記事も見受けられます。スペースの都合もあるのかもしれませんが、「債務負担行為」「繰越明許費」といった専門用語を、何の説明や断りもなく記事で使っていたりします。ほとんどの読者は意味が分からないのではないでしょうか。

私

ただでさえ発行部数が落ちているのに、読者本位から離れた記事を書き続けていたら、ますます新聞離れが加速する…。

 そう思い私は、「次年度以降の支出をあらかじめ約束しておく債務負担行為を設定し…」などと、必ず簡単な説明を付け加えるようにしました。

 ごまめの歯ぎしりのような取り組みでしたが、「説明入れたのか、分かりやすくていいね」と上司から褒められたときは、うれしかったですね。

 ただ、これでもまだ説明不足かもしれません。「官庁会計は次年度への繰越が原則として認められていない」という原則の説明がないからです。

まとめ ー数字に強くなれば重宝される?ー

 今回は、自治体の財政を取材する上で役に立った本の紹介でした。

 数字は嘘を付きません。政治家の演説や市役所職員の説明を10回聞くより、予算書を1回見たほうが、そのまちの現状や課題をつぶさに感じ取ることができると思います。

 新聞記者は文系出身者が多いので、数字に強い人材はそれほど多くありません。自治体職員もおそらくそうだと思います。

 私がこれらの本を読んだのは30歳を過ぎてからでした。記者にしても公務員にしても、若い頃から財政や予算について勉強しておけば、それぞれの組織で重宝されるのではないかと思います。

 とはいえ、きょうが人生で一番若い日です。「思い立つ日が吉日」の精神で、いろいろと勉強していきましょう。

本の紹介

Posted by かく企画