芦沢央「罪の余白」

 こんにちは。「かく企画」社員の仮面ライターです。

 今回は、2012年の野生時代フロンティア文学賞受賞作の紹介です。作者は芦沢央(よう)さん。タイトルは「罪の余白」(角川書店)です。

あらすじを短く紹介

 妻をなくした大学教員の主人公は、高校生の娘と2人暮らしをしていた。その娘がある日、学校で転落して死亡。自殺とされた。

 娘の悩みに気がつかなかった自分を責める主人公は、いじめが原因だったことに気がつく。巧妙な手口で娘を追い込んだ同級生を主人公は追い詰めていく。最後は、自分の命をかけて、同級生の嘘を明らかにしようとする。

サイコパスな女子高生の心理描写

 娘を自殺に追い込んだ同級生の女の子はサイコパスです。恐ろしいまでの自己中心的な性格で、装って生きていくために、心情や考え、行動のすべてを嘘で塗り固めています。

 彼女と接する人たちは、自然と操られてしまいます。その事自体が彼女の目的であり、自分がただならぬアイドルとして、他人を世に出るための道具にしか見ていません。

 父子家庭に育ったナイーブな主人公の娘は、その毒牙にかかってしまいます。しかも、「アイドル同級生」は、自分で手を下しません。

 プロットがよく考えられていて、主人公が「アイドル同級生」に突き落とされるまでのシナリオはすばらしいの一言です。

新人賞は厳しい

 巻末に選評が掲載されていたので読みました。芦沢さんの作品以外の選評もあり、とても勉強になりました。

 作品はよく書けていると思うのですが、鋭い指摘が書かれていました。

プロットを練りすぎてもダメ。また、小説を書く技術や、これまでに読んだ本から身につけた技が、作品に芳しくない影響を与えることもあるようです。

 新人賞の最終選考に残るような作品ですから、プロとしてやっていくために、あえて厳しい視点で評価されているのだと思います。人の評価はそれぞれでしょうが、プロの評価ですから納得する部分が多くあります。

 選評で言わんとしていることはわかりましたが、さて、自分が書くものにそれを活かすとなると簡単ではないこともわかります。

 話は脱線しますが、(野生時代フロンティア文学賞ではありませんが)、とある賞を受賞した作品を読んで、「どうしてこれが受賞したのだろう」と思うことがありました。

 選考委員の数人は、私が好きな作家の人たち。なんだか複雑な気持ちになりました。

 新人賞の受賞作を読むようになったのは、自分が賞を取るために勉強しようと思ったからです。今でもそういう点を意識はしています。一方で、受賞作に「ハズレ」が少ないというのも事実で、良い作品に巡り合う近道だということにも気が付きました。

小説執筆

Posted by かく企画