水庭れん「うるうの朝顔」
小説好きの「かく企画」社員の仮面ライターです。
今回ご紹介するのは、水庭れんさんの「うるうの朝顔」です。第17回小説現代長編新人賞受賞作です。
冬に朝顔の話はどうかとも思いましたが、好きな作品なので紹介します。
ちょっとだけあらすじ(+感想)
人の中の「ズレ」を調整するという朝顔。その朝顔をめぐり、4人の主人公がオムニバス形式で登場します。
ズレを調整するということについて、登場人物たちのそれぞれの体験と解釈があるので、短編集のような読みやすさがあります。
短編のようにストーリーが流れていきますが、4人の主人公と関わりを持つ、「凪」という名の青年が、物語をまとめています。
凪は、亡くなった女の子との思いを引きずり生きています。朝顔の力を他人で実験しているうちに、自分が使う機会を逃してしまいます。
凪にとってのズレは何だったのか。読後感は、読者によって違ってきそうです。
ズレってなんだろう
作品を読んでいない人には、「ズレ」ってなんなの? という疑問がわくと思います。それが、その作品の肝でもあるのですが、私は、この仕掛けが好きになりました。
人生をある年齢からやり直したらどうなるのだろうと、私は妄想することがあります。黒板に書いた字や絵を黒板消しでまっさらにするようなやり直しの妄想です。
でも、この作品では、まっさらにするのではなくて、「ズレ」を「調整」するのです。
考えてみたら、小説というのは、読んだ人の中にある「ズレ」を「調整」する機能があるのかもしれません。もちろん、すべての作品ではないですが。
小説を読んで、考えや価値観を元のものから少しずらすことが出来たら、その作品は成功なのだと思います。さらに、それを読者が楽しんでくれたらこの上ないです。
自分の中にあるズレ
作品全体が気負った感じがなく、とても読みやすかったのが印象的です。
時々、読みにくくてもおもしろい作品にも出会いますが、ストーリーの中心を流れているものがすっと入ってくる方が最近は好きです。
この作品は、読みやすさと反比例して、読後ずいぶん時間が過ぎても、私の中に残り続けました。
この作品は、自分の「ズレ」を考えさせます。私の夢に定期的に現れる人やストーリーは、自分の中にある「ズレ」なのか? 現実世界では、ズレを調整する朝顔はないけれど、夢に出てくるだけ良いのかも知れません。
おそらく、読む人によって感想がかなり異なる作品だと思います。この小説を手にとって、ご感想を寄せていただけたらとてもうれしいです。
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