「何らかの事情を知っている者」とは どういう人物なのか

新聞記者

アナウンサー
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警察では、この人物が何らかの事情を知っているとみて、行方を追っています

 よくニュースで「何らかの事情を知っているとみて…」という言葉が出てきます。「何らかの事情」とはどういった事情なのでしょうか。そして、この事情を知っている者は、犯人なのでしょうか。

 こんにちは、社長の藤田です。2021年に19年3カ月勤めた新聞社を退職し、フリーランスのライターとして活動しています。記者時代は、事件や事故の担当をしていたこともありました。

 ニュースや新聞でよく見聞きする言い回しについて、過去何回か書いてきました。

 今回は、「何らかの事情を知っている」という常套句について、考えてみたいと思います。

逮捕と任意同行の違い

 警察や検察は、事件の捜査において、犯人の可能性が高い人物を見つけると、警察などへ呼んで話を聞き出します。

 警察などへ連行する方法として、「逮捕」と「任意同行」の二つのパターンがあります。

逮捕

 逮捕は、特定の人物を強制的に警察署などに連行して、取り調べを行うことです。その人物が罪を犯した可能性が高く、証拠隠滅や逃亡のおそれがある場合に限り認められています。

 逮捕したい人物がいる場合、警察や検察は裁判所に逮捕状を請求します。逮捕状が発行されて、はじめて強制的に身柄を拘束することができるのです。

任意同行

 これに対して任意同行は、逮捕状の発行や身柄の拘束を伴わず「ちょっとお話を聞かせていただけますでしょうか」といった感じで警察へ呼ぶことになります。

 任意なので、行くかどうかはその人の自由。もちろん断ることもできます。ただ任意同行に応じなかった場合、証拠隠滅や逃亡のおそれがあるとみなされて逮捕されることも考えられます。

「容疑者」と「何らかの事情を知っている者」

 報道では、逮捕された人のことを「容疑者」と呼びます。犯罪の疑いがかかっている人物という意味です。

 これに対し、「何らかの事情を知っている」者は、逮捕される前段階の、任意同行を求められるレベルの人物を指すことが多いです。

 警察関係者やニュースの視聴者のうち、多くの人は容疑者イコール犯人と思っています。容疑者が容疑を認めている場合は、ほぼ間違いないといってもいいでしょう。

 一方、裁判で有罪判決が確定するまでは、何人も犯罪者として取り扱われないという「無罪推定の原則」があります。容疑者はおろか、逮捕される前の人物を犯人呼ばわりすることはできません。

 犯人の可能性が高いのだけれど犯人呼ばわりできない、逮捕されていないので容疑者とも呼べない―。そんなあいまいな立ち位置から、「何らかの事情を知っている」というはっきりとしない呼称が生まれたのではないでしょうか。

重要参考人

 「何らかの事情を知っている」とよく似た言葉に「重要参考人」という言葉があります。ほぼ同じ意味と考えて差し支えないと思います。

 「何らかの事情を知っているより」も、重要参考人のほうがより凶悪なイメージがあると感じるのは私だけでしょうか。最近の報道では、重要参考人が使われるケースは少なくなっているような気がします。悪いイメージを和らげるため、「何らかの事情を知っている」が多用されているのかもしれません。

まとめ

 今回は、「何らかの事情を知っている」についての考察でした。まとめです。

「何らかの事情を知っている」者は

・任意同行の対象者
・重要参考人とほぼ同じ意味
・犯人ではないが、そうである可能性が高い
・逮捕されておらず、容疑者と呼べない

 あいまいな立ち位置から生まれた、あいまいな言葉。こんなマスコミ用語は探してみると結構あったりします。また機会があれば紹介したいと思います。

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Posted by かく企画