第三者の原稿や作品を書き直す際に心掛けること -漫画家・芦原妃名子さんの訃報より-

 こんにちは、「かく企画」社長の藤田です。新聞社で勤務ののち、フリーライターとして新聞、機関誌、ネットメディアなどを舞台に取材・執筆をしています。

 ニュース記事やインタビュー記事を掲載する際、多くの場合において第三者によってチェックが行われます。これは小説、漫画、映画などの映像作品といった創作分野においても同じだろうと思います。

 今回は、第三者の原稿や作品を書き直す際に心掛けるべき大切なことについて考えたいと思います。

ある漫画家の訃報

 2024年1月29日、何気なくスマートフォンをいじっていたところ、漫画家の芦原妃名子さんの訃報が飛び込んできました。

 報道によると、連載中の代表作『セクシー田中さん』がテレビドラマ化された際、テレビ局側とトラブルになっていたとのことでした。詳細はここでは触れませんが、原作漫画に忠実なドラマを芦原さんが要望したものの、提示されたプロットや脚本ではストーリーが大きく改変されており、芦原さんの納得いくものではなかったようです。

 自分が手掛けた文章や作品が、思わぬ方向に直されてしまう-。騒動のいきさつをニュースで読み、新聞記者やライターの世界にもよくある話だな、と率直に思いました。

 この文章を書いている現在、SNSを巡っては特定のテレビ局や個人に対する誹謗中傷が渦巻いています。それだけに、いまブログにアップするべきではないかなぁ、とも考えました。

 しかし、今回のことを機に、原稿に手を入れることに関する責任について、物書きのはしくれとしていまいちど考え直すべきではないかと思い、公開することにしました。

思いもしない内容に直される原稿

 前項で触れた通り、自分の書いた原稿が、自分の思わぬ方向に直されてしまうというのは、新聞記者にとって「あるある」な話です。

「発言の一部が切り取られた」

 新聞記事では、伝えたい項目を一つ、ないしは数個に絞っています。ある程度テーマを絞らないと主張がぼやけてしまうから、というのが大きな理由です。紙なので収容できる情報量に限界があるという事情もあります。

 そのため、取材される側が「いろんなことを記者に話したのに、一部しか載っていない」「発言の一部だけが切り取られている」と思うことがままあります。

「ニュースにならない」と一方的に直される

 さらに、記者が書いた原稿は、デスクと呼ばれる上司にあたるポジションの人が手を加えます。記者歴何十年のベテランが務めることが多く、長年培ってきた専門性や筆力を生かして手直しを加え、原稿を記事に仕上げていくのです。

 記者から上手に取材意図を引き出し、芸術的に文章を手直しする敏腕デスクもいるのですが、中には「この論点ではニュースにならない」と有無を言わさず自説を押し付けたり、一方的に原稿を書き換えたりするデスクも残念ながらいます。

 そうなると悲劇の始まりで、取材で聞いた内容や取材に対する思いは、まったく原稿に反映されません。取材を受けた人や原稿を書いた記者が全く意図しなかったものが新聞紙上に載ってしまいます。

 もちろん、デスクだけが悪いのではありません。記者もしっかり取材した上で、要点を突いた完全原稿を提出すれば済む話。デスクを納得させるだけの筆力を身に付ければよいのです。

広告記事、インタビューでもたまにある「改変」

 私が現在手掛けている広告原稿やインタビュー記事においても、意図しない原稿の「改変」はたまにあります。

 一つは、サイト管理者など、メディアの運営者側が原稿に手を加える場合。メディアに沿った記事内容にするため、取材された人の思いや考えが曲げられてしまうといった具合です。記事掲載前、取材対象者に原稿を確認してもらう際に、「あれ、こんなこと言ったかな?」ということがあります。

 また、取材を受けた人の上司や部下、取引先などの関係者が記事を手直しした場合は、十中八九文章のクオリティーは下がります。責任を回避するための曖昧な言い回しや、正確さを気にしすぎる余りの難解な専門用語が多用され、一読しただけでは何を書いているのか分からない文章になってしまうのです。

 取材対象者の話し方、トーン、言葉を尊重したうえで文章にしてこそ、読み手に共感される記事ができあがると考えています。

原稿や作品を書き直す際に心掛けること1選

 第三者の原稿や作品を書き直す際には、どのようなことを心掛ければよいのでしょうか。

 月並みな答えにはなってしまいますが、私はやはり「書き手、作り手の思いや意図を確認する作業を面倒がらない」ということに尽きると思います。

 新聞では、社会の課題を読者に的確に伝えるため、デスクやメディアが原稿をチェックするのは絶対必要です。場合によっては、大幅に書き換えられても仕方がないと思っています。

 それでも、原稿をチェックする立場の人は、執筆した記者に対し、このように書いた理由、なぜこの課題を主に持ってきたかなど、思いや意図を確認する作業するべきだと思います。締め切りも迫るし、自分で書き直した方が早いかもしれませんが、それでもこの作業は怠ってはならないと思います。

 今回問題となった漫画作品のドラマ化においても同じです。

 多くの視聴者が喜ぶ作品にするためには、ある程度の原作の改変は避けられないかもしれません。それでも、脚本をつくる過程でテレビ局側から原作者にコミュニケートし、意見をすりあわせることはできなかったのだろうか。

 あたら才能あるクリエイターの命が散ってしまい、「思いや意図を確認する作業を面倒がらない」ことの大切さを痛感しています。

新聞記者

Posted by かく企画