「四つ巴の戦い」は誤用か ―分かりやすい言葉で書こう―

 こんにちは、社長の藤田です。現在フリーライターをしていまして、新聞広告、インターネットのインタビュー、団体の機関誌などの記事を書いています。かつては新聞社で報道記者として働いていました。

 先日、所用で関西地方へ行く機会がありました。道中、喫茶店に入り新聞を読んでいると、ある市長選挙の記事に次のような見出しが付けられていました。

 「現新四つ巴の戦い」

 「現新」とは現職と新人の意味。3期目の当選を目指す現職に対し、新顔候補3人が挑んでいることを端的に表しています。

 それにしても「三つ巴」という表現はよく見ますが「四つ巴」という言葉は見たことがなく、正直違和感を覚えました。そもそもこの文章をパソコンで書いている際も、一発で変換されずに「四つども絵」と誤変換されます。かけがえのない執筆のパートナーである我が愛機も、この言葉は知らないようです。

 もはや職業病ですが、新聞や本を開いていて、気になる表現に出くわすと気になって読むのがストップしてしまいます。この記事も見出しで詰まってしまい、肝心の本文がどんな文章だったか全く覚えていません。

 果たして四つ巴という言葉は実在するのでしょうか? 調べてみました。 

結論 ―「四つ巴」は間違いでない―

 この「四つ巴」という言葉、結論から言うと、どうやら誤用ではないようです。

 「巴」とは、勾玉のような形を組み合わせた文様を意味します。古来、家紋などの図案によく使われています。

 中でも、巴が三つ配置されている「三つ巴」を目にすることが多く、日本語の表現においても選挙で3人の候補による戦いや、スポーツで有力3選手がしのぎを削る場合の比喩としてよく使われます。

 さまざまな家紋のフリー素材を扱っているサイトにも、以下のような記述が見られました。

<引用>

巴紋の種類には、図案に用いる巴の数で、一つ巴、二つ巴、三つ巴などに分かれ、さらにそれが左巻きか、右巻きかによる違いも有りますが、この項で取り上げる左三つ巴紋が、数ある巴紋の中でも多用されているようです。

出典:フリー素材サイト 発光大王堂

一つ巴、二つ巴、四つ巴もある

 しかし、上記の引用にもあるとおり、巴を使った文様にはさまざまなバリエーションがあります。

 巴が一つだけの「一つ巴」、点対称のように二つが配置されている「二つ巴」など。さらに調べると、上下左右に巴を配した「四つ巴」という家紋もありました。

 ですので、4人の争いのことを「四つ巴」と言っても、間違いにはなりません。

 余談ですが、三つ巴を中央に一つ置き、その周囲に八つの小さな三つ巴を配置した「九曜巴」という紋もあるそうです。戦国武将の上杉謙信がまだ長尾景虎と名乗っていた時代に使っていたほか、剣豪の宮本武蔵もこの紋を使っていたと言われています。

 もし、選挙に9人の候補が出馬したならば、「九曜巴の戦い」と言うのでしょうか? 言うわけがないですね。

まとめ

 ということで、まとめです。

・新聞の見出しに使っていた「四つ巴」は正しい

・自分の知らない言葉だからといって、間違っていると先入観を持つのはやめよう

 いやー、言葉っていうものは、本当に奥が深いものですね。ではまた!

「四つ巴」は本当に使うべき言葉か?

 と、普通ならばここで終わってもよいのですが、記者→ライターとして言葉を生業としている以上、もうすこし考察を深めたいと思います。

 「四つ巴」という言葉を、本当に使うべきだったのでしょうか?

見慣れない言葉をわざわざ使う必要はない

 私は思うのですが、例えその言葉が用法的に正しいとしても、読み手に疑問を抱かせたり、誤解を誘ったりする場合は、使用を控えるべきです。

 前述の引用サイトにも書いていましたが、「巴」と言えば、三つ巴を連想する人が圧倒的に多いと思います。単に「巴戦」と言えば3人による戦いを指しますし、大相撲でも、千秋楽での3人による優勝決定戦のことを巴戦と呼びます。

 今回の新聞の見出しでも、一般的にはあまり使われることのない「四つ巴」といった言葉をわざわざ使う必要はないと思います。シンプルに「4候補の戦い」と見出しを付けたほうがよかったかもしれません。

「間違った言葉ではない」と主張するライター

 文章や言葉遣いにこだわりを持つライターの中には、文章で難解な言葉やあまり使わない単語を使う人がいます。クライアントなどに書き換えるよう求められた際に「言葉としては間違っていない」と主張して、修正を拒む人もいるようです。

 しかし忘れてはならないのは、読み手にとっては言葉が正しいかどうかは問題ではなく、分かりやすさのほうが重要なのです。

「コロナ渦は正しい」と主張する人

 話はそれますが、以前、コロナ禍を「コロナ渦」と書いてしまった人がいました。素直に直せばよかったのですが、「コロナの渦中にあるから間違いではない」と強弁し、結局直しませんでした。

 ここまでくれば、もはや屁理屈としか言いようがありません。

 「禍」という漢字には、災い・災難という意味があります。歴史をひもとけば、戦禍、サリドマイド禍という言葉が使われていました。言うまでもありませんが、コロナ渦は誤用です。

本当のまとめ

 さて、本当のまとめです。

・新聞の見出しに使っていた「四つ巴」は正しい

・とはいえ、正しい言葉だとしても、なじみのない表現は使用を控えるのが良い

 繰り返しますが、読み手にとっては言葉が正しいかどうかは問題ではなく、分かりやすさが重要です。

 私もできるだけ分かりやすい言葉を使うよう肝に銘じて、日々執筆をしたいと思います。

新聞記者

Posted by かく企画