石田衣良「SEX」

 みなさん、こんにちは。かく企画社員の仮面ライターです。

 今回は、石田衣良さんの短編集「SEX」を紹介します。この作品を読んだのは、バイト先でなんともやりきれないことが続いた時でした。

 本を読んでも話が頭に入らない。ジョギングも水泳もしたくない。筋トレすらしたくない。酒を口にしてもうまくない。私には、1年に1、2回そういう時があります。

 この作品を手にしたのは、そんな日々でした。

 数ページしか読めないだろう。そうあきらめながらページをめくるうちに2日で読んでしまいました。ちなみに、今となっては、バイト先で何があったか、思い出せません。

 これまでにない心地よさを感じたこの作品の好きなところを記したいと思います。

どんな短編集か

 2010年に講談社から出されたこの短編集には、12の作品が収められています。

 セックスを通して、人の生を描いています。ただ、エロいというだけのストーリーではありません。

 もちろん、12作品とも、セックスシーンが書かれています。その表現力の高さは「すごい」の一言です。

 昔読んだスポーツ新聞のエロ小説連載のレベルを超えています。それなのに、切なさや、悲しみ、生きていることの喜び(言葉にすると陳腐ですが)が、じわりと感じられます。

好きなところ

 12作品はどれも好きになりました。いくつか好きなところを書いてみたいと思います。

夜あるく

 一番最初の作品は「夜あるく」です。これを1本目にもってくるとはなかなかです。

 12作品の中でとにかくエロい話です。シラフの状態から見ると、どうしようもない男女。でも、自分もこういうアホな快楽に溺れたことがあるなぁ、と完全に突き放すことができません。

 「この短編集は気楽に心のままに読んでね」という石田さんのメッセージを感じました。

絹婚式

 妻も含めて、女性に近づけない男の話です。

 夫婦でセラピーを受けるなど、なとかしようとするのですが、どうにもなりません。セックスなんて、当然無理です。そんな夫婦の物語。

 結婚して12年も過ぎているのに、これだけの絆がある関係は理想かもしれません。フィクションとわかっていながらも、この夫婦はとても素敵です。

 とんでもないほど辛くて、解決不能な問題を抱えているからこそ、こういう関係を作れるのかもしれない。そう思いました。

クレオパトラ

 勤め先では総務部畑だった男。会社の都合で営業部に行かされます。業績は上がらず、追い詰められる日々に苦しんでいます。苦しんでいることすら気がついてないようにも感じられます。

 ある日、勤務時間中に仕事をさぼって、デリバリーヘルスで女性と関係を持ちます。

 10歳くらい年上の女性。タバコを吸うわ、なんか不躾な感じです。

 仕事をさぼった罪悪感や、派遣された女性に後悔していたのですが、セックスをしてみたら意外なほどの快感を覚えます。

 職場で置かれた状況と、一瞬の快楽。そして、その二つから距離を置き、自分をみている自分。力を取り戻した瞬間の場面がとても印象的です。「怒りと恐れをすべて吐き出した」という表現からパワーが伝わってきます。

ソウルの夜

 シナリオハンティングの仕事でソウルに来た男の話です。男は、豊富すぎるほどの性体験がありそうなキャラクターです。そんな男が日本人ホステスとセックスをすることになります。

 異常なほど、セックスの相性が良く、2人は堪能に浸りながら、その凄まじい性的興奮に恐れを感じるという話です。

 「女の海のにおいがした」という一言が、落ち着いた書きぶりながら、エロい世界にはまっている感じが出ています。完璧すぎるものに出会うのも考えものです。

最後の滴

 若い二人。2年の交際から冷めてしまい、別れることを決めます。

 2人は浅草で最後のデートをします。しかし、久しぶりに体をかさねてみると、お互いの良さが今更ながらよくわかります。それでも、2人は別れることを実行します。

 とてもかっこいいストーリーですが、読んでいて悲しくなりました。

 作り話に登場した2人の男女が、素敵な人生を歩んでほしいと思いました。もしかしたら、数年後復縁するのかもしれないけど。というように、読んだ後も妄想してしまいました。

小説執筆

Posted by kamenw