満員電車の少女を守った青年の物語
みなさん、こんにちは。「かく企画」社員の仮面ライターです。フリーランスになるため、もしくは転職や副業をするために役立つ記事をこのブログで書いています。
日々、読者のお役に立てる記事を書けないかと思案しているのですが、簡単にお役に立てるわけもなく、今回は「役に立たない話」を書いてみようと思います。
このブログの読者には、通勤電車に乗って職場に出社する方もいらっしゃると思います。東京圏内の電車は、コロナで一時期混雑が少し解消したものの、異常な乗車率は変わりません。特に、山手線につながる郊外から延びている私鉄は、朝のノロノロ運転が顕著で、社内で時々喧嘩も起きます。
今日は、その満員電車であった物語を書いてみます。
壁に手をつき 耐え続けた青年
昔の職場で同僚から聞いた話です。
朝のラッシュ時、通勤電車は混んでいました。終点駅に近づくに連れ、社内は限界に近づいていきます。乗客は、微妙に向きを変えることで、顔と顔が近づかないようにしたり、わずかなスペースを効果的に活かして苦しくない姿勢を作ったりします。
時々、足元と上半身が垂直にならず、他の人にもたれかかってしまう人もいます。足場の確保に失敗した人もいれば、面倒くさくて意図的に寄りかかっているのではないかという人もいます。
先頭車両では、高校の制服を着た少女が壁にくっついて立っていました。乗客が増えると、壁際の人は押されて、苦しくなります。
職場の同僚が顔をあげると、壁に手をつく青年がいました。どんどん背中から人が押してくるので、青年の顔は歪んでいます。青年は壁に手をついて、自分と壁の間にスペースを作り、高校生の少女が押されないようにしていたのでした。
知り合いかな? 同僚は様子を見ていましたが、会話はしません。おそらく他人です。
終点駅に到着して、ドアが開くと青年は壁についていた手を下ろしました。
「結構やるじゃん」
壁際にいた高校生の少女は、青年にそういうと、ぞろぞろと車外に出ていく人の波に消えていきました。
青年と同僚の隣りにいた腰痛の男
その青年と私の同僚にぴったりとくっつく様に、一人の会社員が立っていました。
男性は、持病の腰痛で苦しんでいました。この日は時差出勤することが出来ず、致し方なく満員電車に乗りました。朝早く起きて、最寄り駅よりも下りに行ってから電車に乗り込んだのですが、運が悪く、座ることが出来ませんでした。
立った姿勢は、腰に負担をかけます。こんなことになるのであれば、最寄り駅から上り方面に乗ればよかったと後悔しましたが、仕方ありません。
途中までは、微妙に腰を動かすことができる隙間もあり、順調でした。ところが、あと2駅で終点となると、乗車率は異常になり、ほとんど動けなくなりました。
しかも、前にいる体躯の良い青年は、前の壁に手をついてビクともしません。まるで壁のようです。会社員は、自分を押す人たちと、青年の間で腰に負担がかかる姿勢のまま固定されてしまいました。
もうちょっと青年が動いてくれさえすれば、左のわずかなスペースに動けるのに。腰がハンマーで打たれたように痛い。立っていられないけど、座ることも出来ない。
痛みで声もでないくらいの状況で終点に到着。ふと、青年の前を見ると、高校生の少女が。
「結構やるじゃん」
なんなんだ、この2人。わずかなスペースとはいえ、満員電車でそういうことは、やめて欲しい。会社員は顔を歪めました。
変態と思ったら良い奴だった
青年に守られた高校生の少女は、満員電車が嫌い。痴漢被害にこれまで3回も遭い、人に囲まれることを避けるために、なるべく社内の角に位置取りをしています。
しかしこの日は、運悪く角に到達することがかないませんでした。しかも、あと3駅で終点というところで、背が高く、体躯の良い男が密着してきました。
「勘弁してよ。早く女性専用車両を作って、アホ私鉄」
カバンを胸に抱え、お尻を壁に押し付けて触られないようにしました。
少女は下を向いて、早く到着することを願い続けました。すると、頭上からヌメッとした息。何? 上を見ると、男が手をついて、自分が立つスペースを作ってくれていました。
「何、こいつ? 何がしたいの?」
男は、腕一本でスペースを確保していたため、車両が揺れる度に息をわずかに漏らしていたのです。
「変態ではないのね。私のこと、守ってるのかも」
ちょっと安心。ただ、満員電車では、同じ人に良く会います。これを口実に話しかけられるのは迷惑だと少女は思いました。
終点まであと1駅。降りる時に何かされないとは思うけど、何か言った方がいいのかな。でも、舐められたくない。とはいって、私はヤンキーでもないし。さらっと、その場を去りたい。
とうとう車両が止まりました。
「結構やるじゃん」
ベストな言葉ではなかったかもしれないけど、これなら内気な女の子とは受け止められないだろう。少女は、そそくさと車両を降りていきました。
本当の話とは何か?
上の話で、腰痛持ちの会社員と少女の話は、私の想像です。職場の同僚が見ていた満員電車の風景から作ってみました。
同僚の話を聞いた時、私は「かっこいい青年だなぁ」と思いました。同僚は、少女の「結構やるじゃん」というセリフがクールだったと言いました。
別の日に自分が満員電車に乗り、他の乗客と押し合い状態になりました。「意外と迷惑に思っていた人がいたかも? 女の子も本当に喜んでいたのかな?」
「いい話」の裏にある、ちょっとした危うさ。
新聞記者時代、「多角的に取材しろ」と言われました。
いくつかの角度から物を見る必要は記者だけではないと思います。自分の担当や所属部署からの見方だけではなく、時には「これって、どういう意味があるのか」と考えることは、悪くないかもしれません。
「役に立たない話」になっていれば幸いです。
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