電話鳴っても一人

2023年4月19日

 独立やフリーランス、副業のためのスキルや技能などについて紹介している弊社「かく企画」のブログですが、今回は役に立たないお話を提供します。

 そもそも、普段から社会貢献が出来ているのかについて自信があるわけではありません。開き直るわけではありませんが、学歴も会社も頼れない時代であるからこそ、今回は息抜きをしていただけたらという思いで書きました。

 ですので、何かしらの効用を期待しないでいただけると大変ありがたいです。担当は「かく企画」社員の仮面ライターです。では始めます。

新聞記者の息抜き

 記者をしていた頃のことです。新聞社に入社して2か所目の赴任地が、1人の上司と私だけという小さな取材拠点でした。赴任前に新しい町について周囲からネガティブなことをずいぶん言われて、島流しのような気持ちでした。日本海側のこじんまりとした町。少子高齢化が進み、商店街はシャッターが閉まっている店が多い地域でした。

 私がラッキーだったのは、住んでみたらその町がとても魅力的だとわかったことです。前任者が良い取材をしていたおかげもあって、私の取材に多くの人が協力的でした。さらに、二人だけの職場でしたが、上司がとても良い人でした。私の赴任中に上司が人事異動で変わりましたが、新しい人も良い人でした。

 「良い人」というのは曖昧な表現ですが、人間関係が良かったということに集約されるかもしれません。前の職場では人間関係に悩んだので、振り返ってみても良い時期でした。問題があるとすれば、いい加減な私のことですから上司には迷惑をかけたことだと思います。

 この町では、仕事の合間の時間をうまく使って息抜きをしました。夏だったら、一つの取材が終わって次までに時間があると、海で素潜りをしました。取材用の車の後ろに、シュノーケルや足ひれを入れておいて、海が近いとすぐに遊べるようにしていました。

貸切映画館

 二人職場なので、休日にどちらかが出勤状態になります。その代わりに平日に休むことがありました。ある平日休みに映画を見に行ったことが思い出として残っています。

 日本海側を車で走っているとすぐに通り過ぎてしまうような町でしたが、映画館がありました。映画館自体が映画に出てきそうな雰囲気のある建物で、いつか行ってみようと思いながら、その日までなかなか実現していませんでした。

 見た映画は覚えています。「ALWAYS続・三丁目の夕日」でした。当時ヒットした映画で、私は吉岡秀隆さんが好きなのでとても楽しみでした。

 受付には、映画「アダムスファミリー」の母親のようなメイクの謎の女性が座っていました。

仮面ライター
仮面ライター

大人一枚、お願いします

 私がそう言うと、斜め横を向いてわずかに首を縦に振りました。おしゃまな子どもがするような仕草とアダムスファミリーがミスマッチで強烈な印象が残っています。

 映画の本編が始まり三十分ほどで携帯電話が鳴りました。

上司
上司

休みの日にごめん。ちょっと今良い? テレビでも見てる?

 電話の向こうで上司が言いました。まさか映画館とは思っていないようです。

仮面ライター
仮面ライター

大丈夫ですよ。映画館で映画を見てますけど、僕しかいませんから

上司
上司

ほんま、この町らしいなぁ

 上司の要件はまったく覚えていませんが、会話の冒頭のやり取りはよく覚えています。電話の後も映画が終わるまで、場内には私しかいませんでした。

大きなスクリーンに向かって、あの空間を独り占めできるなんて、とても贅沢な時間でした。

映画のような町に住む記者の皆さんへ

 ノスタルジックな映画館で見た、ノスタルジックな作品。あの映画館のことを記事にできないかと考えているうちに、私は町を去ることになりました。そして、さらに月日は流れ、記者でもなくなりました。

 インターネットで検索すると、今もその映画館は存在しているようです。真面目な話をすれば、その土地にずっと住む人たちにとって人口が減っていくことは大きな問題です。あの町にいた時は、地域の魅力について新聞記事を通して、大都市に向けて発信することを心がけてはいました。ただ、どれだけ役に立ったかはわかりません。

 新聞社の経営が厳しい昨今、小さな町を担当する取材拠点がどんどん廃止されています。拠点があっても、記者が発案した自由な取材をする時間がほとんどないという話も聞きます。

 その土地の人たちや、旅人の情報発信が新聞記事に取って代わっているのかもしれません。それはそれで良いことだと思います。

 ただ、もし小さな町に住んでいる新聞記者の人がこのブログを読んでくださっていたら、町の魅力を伝え続けてください。大変だと思いますが記事が読めたらうれしいです。